石に囲まれたカフェ「Rockside Market」で、栃木で出会う人たちと新しい文化を紡ぐ

 

地下水の冷熱で育った「大谷夏いちご」がごろっと入った、栃木県益子産そば粉のクレープが驚くほどにみずみずしい。後ろに見えるのは、栃木県大谷町にある「大谷石」の採掘跡。そのむき出しになった地層からは、ここで積み重ねられてきた歴史の厚みを感じとることができます。映画やミュージックビデオの舞台にもなる唯一無二のこの風景。いま、そのふもとに、新しい文化の拠点が生まれようとしています。

 

 

その名も、Rockside Market(ロックサイド・マーケット)。大谷資料館のそばに建つこの拠点は、一見するとミュージアムショップのように思われる方もいるかもしれません。実際に、大谷資料館の観光の後にほっと一息つくお客さんも多いそう。ですが、近ごろは観光客よりも、この場所に足を運ぶ地元の人たちがじわじわ増えつつあるそうです。

 

有名な観光地があまりにも暮らしのそばにありすぎると、なんだか足が遠のいてしまう人も多いはず。そんな地元・栃木の人たちの中で「なんだか面白そうな場所ができた」と、ひそかに注目を集めているのはなぜでしょうか?

 

 

新鮮な地元産の食材にこだわったフードやドリンクを提供してくれるのは、この土地をこよなく愛するスタッフたち。

 

にこやかに手渡されるドリンクを受け取ってカフェスペースに入ると、テーブルの真ん中にどんと置かれた、大谷石を大胆にくりぬいた花器が目に留まります。

 

グッズやインテリアに地元のものを活かしてうまく取り入れる、みずみずしい感性を目の当たりにすると、これまで馴染みがあったものだからこそ、なんだか新しい発見をしたような気分になります。そこに暮らす人にも、地元への誇りを呼び起こさせるはず。

 

 

「古くから大谷石で栄えてきこの土地には、大きなポテンシャルがあります。それをもう一度掘り起こしたいと思ったんです」

そう話すのは、Rockside Market代表の高橋智也さん。

 

栃木で生まれ育ち、地元の商社で働き……と、これまで栃木を出たことがない高橋さん。大谷資料館といえば、小学校の社会科見学で訪れる定番スポットだったそう。あまりにも身近にあったためにわざわざ足を運ぶことはなかったけれど、心の中では地元の名所を誇りに思っていました。

 

それから十数年がたった頃。ひさしぶりに訪れた大谷資料館が、知らないうちに時代に取り残され、閑散とした観光地になっていたことに愕然としたそう。

 

 

「自分がそうだったように、子どもや孫の代でも『大谷町ってすごいところだ!』『自分のおじいちゃんやおばあちゃんが作ってきたまちだ』と誇りを持てるようにしたい。そんな使命感が沸き起こりました」

 

2016年4月、観光地らしい小さなお蕎麦屋さんがあったこの場所に、栃木の文化を発信する拠点、Rockside Marketを立ち上げます。

 

 

観光地にあやかるのではなく「地元のお客さん」をターゲットにした店づくりや、音楽フェス『WONDER DISCO 2019』などの新しくて魅力的なイベントづくりを続けてきたのは、「観光という一過性のブームではなく、地域にしっかり根を張る新しい文化を築いていきたい」という想いがあったからこそ。

 

 

合言葉「Think Local & Fun to Local」にも、その想いは現れています。自分が暮らす、働くこのまちを好きになり、まずは自分たちがワクワクする気持ちを持てば、自然と人が集まってくるはず。飲食・小売経験ゼロからの新たな挑戦で、初年度には約1300万円の赤字を抱えたこともありましたが、その想いが浸透しはじめた3年目には利益が運営費を上回るように。

 

 

店内を見渡すと、いわゆるお土産物とは全く違う、それぞれストーリーを持った地元の作り手の作品がずらりと並びます。美しい卵形の大谷石の卓上モビールは、栃木県足利市の工房『mother tool』とのコラボレーションです。

 

「大谷石を植木ポットにしたら絶対可愛い」というスタッフのアイデアから大人気商品になった多肉植物の鉢植えは、栃木県鹿沼市の多肉植物作家『LadyBird』とのコラボレーション。手しごとにより自然な表情が引き出された大谷石のポットに、ちょこんと入った多肉植物が可愛らしいですね。どの組み合わせもここにしかない一点ものです。

 

 

上品ですこし高級感のある大谷石だからこそ、繊細なアクセサリーにもよく合います。『IQYO TSUKAMOTO』のアクセサリーは、どんな年代の女性にも優しく華を添えてくれそう。

 

 

大谷石はそれだけで価値があり、高値もつきます。そんな大谷石を、あえてクラフトの材料にしたり、着色をしてみたり、そんな楽しい“ひと手間”を垣間見ることができるのもRockside Marketならでは。「自分たちがワクワクする地元の可能性を見つけていきたい」という理念を、スタッフ自らが体現しているのです。

 

 

ほかにも、「益子陶器市」でも人気の作家さんのうつわをはじめ、草木染めの絹糸を手組みした栃木県小山市の伝統工芸「間々田紐(ままだひも)」のアクセサリーなど、眺めるだけで新しいローカルの可能性を感じさせるようなワクワクするものばかり。

 

 

Rockside Marketが考える「地元の人にこそ知ってもらいたい、ほかの県にはない栃木の魅力」とは、どんなものなのでしょう。

 

「栃木は作り手の多い県だと思います。そして、カフェもとても多い。“アメリカのポートランドみたいだ”と言う人もいます。面白い人が多くて、生き方も多様です」と高橋さん。

 

他にはいない、面白い生き方をする人たち。ここにしかない文化は、この土地を訪れるそんな人たちによって築かれていくのかもしれません。

 


 

記事は取材当時のものです。