京都最古の花街、上七軒から世界へ。「あだち」が魅せる新しいつづれ織の姿とは
真っ直ぐな視線と長い髭が愛らしい「ねこ」。湯気の立つホットコーヒーのまわりにビーンズが散りばめられた「ひといき」。洋風で小洒落たカラーが美しい「アーガイル」。どれもこれも魅力的なデザインばかりですが、みなさんこれが何だかわかりますか?実はこちら、日本の伝統技術である西陣織・つづれ織を使って作られた和小物たちなのです。
昭和28年、京都府・西陣北野にて製織業を始めた老舗「あだち」。京都最古の花街、上七軒の大変趣のある街並みの中で、静かにお店を構えられています。起多乃綴と名付けられた伝統あるつづれ織物を生み、その格式高い技術を継承しながらも現代に新たな風を吹き込み続けています。
着物や帯をはじめとし、和小物や洋装小物に到るまで、粋なデザインに心が惹かれるアイテムたち。今回は株式会社あだちの代表取締役社長であり伝統工芸士の名も持つ足立敏さんに、詳しくお話を伺いました。
そもそもつづれ織とはどのような織物なのか、足立さんに教えていただきました。つづれ織は織物の種類で言うと、縦糸が1に対し横糸も1という単純な平織組織から成っています。それにもかかわらず、織り上がった表面は横糸しか見えないという特殊な織物なのです。そして西陣織りの中でも軽くて丈夫であるという、なんとも実用的で魅力的な一面も。
また、古くから縦糸は「芯糸」と呼ばれており、神の糸・心の糸として敬われていたそうです。そのため西陣織・つづれ織は神や心を包み込む織物として、人々から大切にされてきたと言われています。これを知ると古の日本の美しい感性がふっと蘇ってくるような、不思議な気持ちになりますね。
ここ上七軒から届けられる歴史あるつづれ織りの地名度はまだまだ高くありませんが、多くの方に手に取ってもらい良さを分かっていただけたら嬉しい、と語る足立さん。
西陣織・つづれ織という伝統ある技法を用いたアイテムを作ろうと思ったきっかけは、初代・峯陽氏が西陣で創業したものを受け継ぎ、またそれらを伝承していくためなのだそうです。
お店の中には、見る者の心をがっしり掴んで離さないカラフルで可愛らしいデザインのアイテムたちがずらり。あれもこれもと目移りしてしまいます。私たちが持つ和小物の古風なイメージとは少し違っているのではないでしょうか。とてもモダンで、新鮮に感じられます。
これらの商品デザインへのこだわりは、ポップなものから伝統的なデザインのものまで幅広く採用し、手に取る方々が楽しんで愛用できることなのだそうです。確かに、心が弾むカラーリングと粋なデザインで、持っているだけでハッピーになれそうです。
また、デザインだけではなくつづれ織ならではの軽くて丈夫な手触りも是非感じてもらいたいそう。使っていくうちに手に馴染んで行く経年変化も楽しめるので、味のある一品として長く大切に愛用できるのも嬉しいですね。
そんな伝統と新しさをミックスさせた、独自の商品を開発されているあだち。今後新たに作ってみたいアイテムについて伺ってみました。
現在考えているものとして、札入れと名刺カードケースでしょうか。本物にこだわった手織りのつづれ織で、なおかつ本金糸とプラチナ糸を使用した逸品ものを作りたいです、と足立さんは語ります。老舗こだわりの逸品、とても気になります。
最後に、今後の展望や挑戦していきたいことについて伺ったところ、フランス・リヨンのお話をしてくださいました。
10年前に昔の織物の町、リヨンに行って感じたことがあります。リヨンと西陣は歴史的に深い結びつきがありますので、夢ではありますが、リヨンに店舗を持ってみたいなと思っています、と足立さん。
日本に古くから根付く美しい感性、そして西陣織・つづれ織という伝統技術を大切にしながらも、常に新しさを追求するあだち。それが世界へと羽ばたいて行くことを想像するだけで、とてもわくわくして今後も目を離せません。
こちらは2018年8月30日公開の記事を再編集して公開しました。記事は取材当時のものです。