日本の美しき袋物文化を現代に。命を繋ぐ「TOUBOKKA」のものづくり
ていねいに手縫いされた滑らかな曲線が印象的な革製の袋物に、独特なモチーフの装飾。よく目を凝らして見てみてください。とても繊細で遊び心溢れるチャーミングなアイテムに、思わず笑みがこぼれてしまいます。今回はそんな個性的な袋物雑貨をハンドメイドで製作するブランド、「TOUBOKKA(トウボッカ)」さんにお話を伺いました。
やわらかい光が空間を包み込む、とても気持ちの良さそうな工房。こちらでTOUBOKKAのアイテムが一つ一つ手作業で製作されています。上からちらりと動物の角のようなものが見えますね。
まずはTOUBOKKAの商品の魅力をご紹介します。こちらは“張子の虎”という名の名刺入れ。手縫いでていねいに仕立てられた美しいボディは、“茶利八方(ちゃりはっぽう)”という大変希少な山羊革でできています。
明治維新の頃から日本で作られるようになったものですが、技術が途絶え、今では作ることができる職人さんもいなくなってしまいました。昨年革問屋さんの協力を得て数枚再現されたとのことですが、全て手作業で大変な手間がかかるのだそうです。
また、手縫いの技術にも要注目。こちらももう途絶えてしまった“閑清縫い(かんせいぬい)”という技術で仕立てられています。この技法で仕立てることのできる職人さんは数人いるかいないかという特別なもの。なんとTOUBOKKAでは、骨董市などで壊れかけの煙草入れを入手し、虫眼鏡でその技法を解読しながら習得したのだそう!飽くなきこだわりに感動します。
そして正面金具部分には、少し困っているような驚いているような独特な表情の虎の姿が。鹿の角を削り出して作られており、また首が動く仕様になっているので、芸の細かさに驚かされます。
丈夫で実用性があり、かつユーモラスなアイテムを生み出すTOUBOKKA。“トウボッカ”という美しく謎めいた音の響きに魅かれてしまいますよね。まずは気になるブランド名の由来、そしてブランドのコンセプトを教えていただきました。
森の中、老木が静かに倒れる。光が差し、風が吹き、百万粒の種が舞う。そして時間…あらゆるモノの存在が、朽ち木に一輪花を咲かせる。〈 TOUBOKKA = 倒木花 〉倒木を養分として植物が育ち花を咲かせるように、残された品から過去の精神や技術を学び、再び甦らせたいという願いが込められています。
名前の響きの通り美しく、そして純粋な想いが。そしてこの造形美、なんと独学で習得したというので驚きです。主に革、そして水牛や鹿の角などを使っているそうですが、ではそれらの素材を使って袋物を作ろうと思ったきっかけとは何だったのでしょうか。
まず初めて煙草入れを目にした時、まるで子供のように単純で透き通った喜びを感じたんです。江戸~明治・大正時代に花開いた袋物文化。革や角はもちろん、金属、漆、裂 、竹、陶、ガラスなどあらゆる素材が使われ、森羅万象様々なモチーフが多くの職人により生き生きと表現されていました。世界的に見ても、他に類を見ないユニークで多様な世界観にはいまだ心惹きつけられています、とのこと。
私たちの日常に当たり前にある袋物という文化について、一度立ち止まって考えてみたことは皆さんなかったのでは?そんな過去のユニークな日本文化から得たものを、更にスパイスを加えて現代で表現しているTOUBOKKA。続いて作品作りにおけるこだわり、大切にされていることについてお聞きしました。
とにかく時間と仲良くすることを心掛けています。とても細かい作業が多く、一針縫うにも集中力が欠かせません。 頭ではなく指先で考え、焦ることなく淡々と正確に進めて行く。常に根気と忍耐です。
しかし、それだけでは完成したものは窮屈で息が詰まったモノとなってしまいます。だから出来るだけ大らかに、出来上がったものから楽しさも感じられるように意識しています。時間は動きであり、命そのもの。数を追うことなくゆったりとした精神で時間と向き合うことができるようにと気をつけています。と言ってもなかなかそうは行かないこともありますが…と、語ります。
続いて、TOUBOKKA独特のモチーフデザインについて、どんなことから着想を得ているのか伺ってみました。
日本人なら誰しもが知らず知らずに身につけている自然な感覚、その時その場所で出会った生き物や風景、人々との会話や想い、それらが混ざり合って想像する力、そういったところから物語が生まれて来ます。
それは見えないものが見えたり、触れないものに触れたり、嗅いで聴いて感じて自由に羽ばたくこと。表現とは自分の内にある何かを外に出すことですが、それは皆、外にあるモノとの繋がりから生まれます。本来の自分は空(カラ)であり、大切なのはその繋がり。それらとただ夢中になって遊んでいるうちに、時々思いもよらぬ素敵な何かが飛び出て来ることもあるんです。
これを聞き、TOUBOKKAの持つ世界観が心にすっと入ってきました。 普段忘れてしまいがちな、繋がりの持つ不思議な意味を再認識させてくれるような、あたたかい感覚に包まれます。
商品を手に取ったお客様にどのようなことを感じてもらいたいかをお聞きしたところ、自由に感じていただけたら、とTOUBOKKAさん。
常に今作っているもの、作りたいものに意識が行ってしまい、時には以前作ったものに対して「これは本当に自分が作ったものなのだろうか…」という疑いのような不思議な感覚になることもあるのだそう。
ただ私自身、袋物と出会ったことにより、自分の身近な所に多くの素晴らしい文化や自然が溢れていることに気付きました。自分たちが豊かであることを知ることは、沢山のものを持つことよりもずっと大切なこと。それにより、少しだけ心に落ち着きを得たように感じます、とTOUBOKKAさんは語ります。
ものが溢れている現代だからこそ、本当に必要なものやこととは何か、そして今ある豊かさに感謝をすることや意識を向けることなど、日常でのふとした気付きが大切なのかもしれません。 次に、今後の展望、そして挑戦していきたいことについてお聞きしてみました。
学ぶほどに奥深さを思い知らされる袋物の世界ですが、地道な努力を続けていけたら幸せだなと思います。急速に失われつつある文化を繋ぎ止めることは容易ではありませんが、今の時代に合うものへと形を変えながら、しかし根底に流れる職人さんたちの心意気は見失うことのないようにしたいです。
また最近、海外で作品を見ていただける機会を得ることができました。大切そうに嬉しそうに私たちの作品をご覧になる姿は、日本の方と少しも変わらなかったです。国内だけでなく、海外の方々にも日本の袋物文化を知っていただける機会をもっと増やせたらと考えています。
自分たちに残されたものから過去を知り、そして未来へと繋いでいくものづくりをするTOUBOKKA。最後に、皆さんに伝えたいことをひとつ。
日本の革文化を遡ると、私たちも素材として使用している鹿革へと辿り着きます。今現在、増えすぎた鹿の多くが駆除され、廃棄されています。奪った命の活用。現場で働く方々と関わっていると、ものづくりに携わる者として、また人として何を為して何を為すべきでないかを考える機会に直面することが度々あります。共に在る、共存とは何か。長い時間をかけて向き合っていきたいと思っています。
TOUBOKKAの作品には、とても深いメッセージが込められていました。ものづくりを通し命を繋いでいく。そしてその尊さを手にした人たちにも感じていただけたら、世界が今より本当の意味でもっと豊かになり、人も、動物も、ものも、優しさに包まれるような気がしませんか?
みなさんも実際に商品を目で見て触れていただくことでTOUBOKKAの魅力を更に感じられると思います。編集部も拝見しましたが、手触りの良さ、仕立ての美しさ、そして手しごとならではの優しいぬくもりを感じられるブランドで感動を覚えました。作り手の想いがそのままモノに投影されたような、一生をかけて大切にしたくなるすばらしい作品ばかりです。
2018年11月3日より墨田区のたばこと塩の博物館にて開催されている「たばこと塩の博物館開館40周年記念特別展 産業の世紀の幕開け ウィーン万国博覧会」中、館内ミュージアムショップにてご覧いただけます。
たばこと塩の博物館HP
https://www.jti.co.jp/Culture/museum/index.html
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記事は取材当時のものです。