江戸の伝統染色を世界へ、そして未来へ 「富田染工芸」のいまとこれから

富田染工芸 江戸小紋

 

都電荒川線の面影橋駅を下車。気持ちのよい神田川沿いを少し歩くと、ぶどうや柿の木が茂る風情のある建物が見えてきました。こちらが古くから江戸の伝統的な染色技法を継承している「富田染工芸」です。今回は実際に工房を見学させていただき、富田染工芸の代表であり伝統工芸士の名も持つ富田篤さんに貴重なお話を伺いました。

 

 

明治初めに浅草で創業し、その後大正3年にこちらの場所に移転されたという富田染工芸。東京で一番大きな染め工場だったのだそうです。今で言うシルクスクリーンにあたる技法の特許を取得し、東京の粋な着物染め文化にいち早く貢献してきました。

 

そんな富田染工芸では、繊細な型紙を使用して染めを行う“東京染小紋(江戸小紋)”と“江戸更紗”という生地がおもに製作されています。機械染めが主流になってしまった現代で、完全手作業で製作されている貴重な染め工場です。現在約13人の職人さんが働かれているのだそう。

 

 

東京染小紋は一見無地にも見えますが、とても細かな柄が施されたとても品のある生地です。長い板にピシッと白生地を張り、その上に型紙を乗せて柄をつけていきます。型紙には細かな柄が彫られており、糊を使いていねいに防染を行います。その後地色を染めることで浮き出るような小紋の柄が仕上がります。

 

江戸更紗も型紙を使い、刷毛を用いて直接色を刷り込みます。ぼかしたような美しいグラデーションを表現することも可能なのだそう。更紗はもともとインド発祥の染色文様であるため、どこかエスニックでユニークな柄があるのも特徴です。

 

ひとえに染めといっても、一反の生地を完成させるために多くの工程を重ね、熟練の職人になるまでに最低10年はかかるのだそう!段取りを最初から最後までしっかり組んで、どの工程も気を抜けません。

 

 

生地を板に張る作業や、型紙をまっすぐ置いて色を乗せることなど、長年の勘が何よりものを言います。先輩たちのやることを目で見て、感覚で地道に覚えて行くしかないのだそうです。

 

また、着物好きに一番人気かつ高級品であるのが極鮫柄の江戸小紋。ミリ単位の本当に細かな柄で、これをマスターするには10年では足りないのだとか。20年かかる人もいるといいます。職人になった以上は挑戦し続けないとね、と現場の職人さんは笑顔で語ってくださいました。

 

手しごとにこだわり、着物の染めの伝統を代々継承してきた富田染工芸。現在5代目になる富田さんは新たな挑戦をされています。

 

 

まずはオリジナルブランド「SARAKICHI(さらきち)」についてご紹介。立ち上げのきっかけは、以前東京都美術館が伝統工芸品とデザイナーをコラボさせる試みをしていた時のこと。その際富田さんがデザイナーの南出さんと出会い、自社の技術を用いたポケットチーフを提案し商品化に進んだのだそうです。

 

SARAKICHIではポケットチーフをはじめ、ネクタイやボウタイなど、すてきなアイテムがたくさん。さりげなく伝統工芸品を身につけることは、粋な大人がおしゃれを楽しむアイデアにぴったりですね。

 

 

ずっと着物専門でやっていましたが、そこでこのような小物も作れると実感し、着物以外の商品開発にも力を入れるようになりました。今までは着物のことばかり考えていましたが、いろんな素材に染めの技術を応用できるとわかり、今ではシルクやカシミヤなどにも染めたりしているんですよ、と富田さん。

 

知人の織物屋さんや地方のメーカーなどと協力し、生地から染めまで一貫してオリジナルで作成されているそう。オールジャパンのこだわりのものを作って、世界に飛び出したいと思っていますと語る富田さんの目は輝いていました。

 

 

代々さまざまなことにチャレンジしたり、工夫を凝らす精神が受け継がれてきたという富田染工芸。“着物の染めの富田”から“染めの富田”という看板にすれば、いろんなことができますから、ととても意欲的。そこで海外に向けて発信されていることについてお聞きしてみました。

 

10月に日本の伝統工芸協会より派遣されてパリに行って、現地の方達に向けて講演会を行いました。その際フランスの織物印刷技術の老舗であるBeauville社と日仏染め屋対決をしたんです!対決のはずが、意気投合してしまいまして。今度来日した時にうちで染めたものを一緒に海外で売ろうという話になったんですよ。

 

あとはまた近々パリに行って、アトリエを借り着物の個展をやる予定です。現地のデザイナーさんを呼んで生地を販売しようと思っています。また今後店舗も作りたいと考えていて、パリに駐在されている方や、パーティなどで着物を着る方向けにお直しサービスを提供したいんです。

 

例えばワインをこぼされてしまった時とか、大変でしょう?私たちは高島屋さんなどでもお直しコーナーを持っていますので、そのノウハウを海外でもぜひ生かしたいです。

 

 

日本のみならず、海外に向けての視野もとても開かれており、お話を伺っていて私たちもわくわくしました。最後に、富田さんからすてきな言葉をいただきました。

 

“ケ・セラ・セラ”という言葉がありますよね。なるようになるという意味ですが、今起こっている現象に対し精一杯頑張ろうということだと思うんです。先のことを考えるのも大切ですが、今頑張ることが大事。またうちで働いている人たちも、楽しく働いてもらえていたら嬉しいです。

 

そしてチャンスというのは、物事がいっぱいある中に転がっているうちのひとつ。仕事も選り好みしていたら、良いチャンスを見逃してしまうかもしれません。忙しいからと言って来た仕事を無闇に断らない!それが私のポリシーでもありますね。

 

 

そう笑って答えてくださった富田さんからは、とても熱いものが伝わってきました。伝統の技を継承しながら、常にチャレンジングな姿勢の富田染工芸。これからも目が離せません。

 

 

記事は取材当時のものです。