足利から世界へ。イタリアと日本の伝統を継承するものづくりを ハンドプリント生産「朝日染色株式会社」

朝日染色株式会社 ハンドプリント

 

東京から約100km北西に位置する、栃木県足利市は繊維の集積産地です。今や繊維は斜陽産業と言われている中、この地には志を持って足利繊維を盛り上げている企業があります。各地の地場産業が縮小し、産地としての機能も果たせなくなりつつある中で、いま頑張っている企業は独自の技術やビジネスの核を持っています。今回はその中でも独自の企業モデルを確立し、確固とした地位を築いている「朝日染色株式会社」にお邪魔してきました。

 

朝日染色株式会社は、有名ブランドのプリントを、ハンドプリントにこだわって企画から世に生み出している、ものづくりの会社です。

朝日染色さんのハンドプリントとは、多種多様な生地に「型」や「版」と呼ばれる色毎のスクリーンのようなものを、1色につき1版ずつ手作業で捺染し、乾かしてから次の1色を捺染。それを丁寧に繰り返していきます。その後、染料の固着&発色の為に蒸し上げ、生地を「足利の水」で叩いて洗い、最後は機械に頼らず、素材風合いへのこだわりから、テンションをかけずに天日干しで乾かしています。

朝日染色のこだわりは、自然の力を借り、人の手でこそ表現できるハンドプリントの良さを最大限に引き出すこと。そして環境に優しくあることです。

実際に工場を見学させていただきましたが、本当に一色・一色、手作業で作業されていました。繊細で緻密な柄も美しく、力強い色の発色が特徴で、まさに職人芸、とても手が込んでいます。

 

現在、服地等として使用される生地へのプリントは、主に量産型の生産設備であるオートプリントやロータリープリント、近年主流となりつつあるインクジェットが多く、それらはウェットオンウェット(インクを乾かさずにどんどん重ねていく技術)なので、インクのにじみを防ぐためにどうしてもインク層が薄くなってしまうのだそうです。それに比べて、ハンドプリントはしっかりとした色の糊層を捺染するため一色、一色乾かしながら、糸の芯まで染めつけて色の力を出しているので、色に深みが生まれる為、ぐっと印象も深まります。

 

朝日染色株式会社 ハンドプリント

 

社長の田邊雅敏さんは3代目。創業は大正7年(1918年)と古く、墨田区の寺島町(現:向島)というところで雅敏さんの祖父である栗造さんが創業し、現会長である惠造さんが引き継いできた捺染工場を継承されてきました。

創業のきっかけは、ハンカチーフで有名なブルーミング中西株式会社(当時の中西儀兵衛商店)の社長が世界一周旅行をしてきたときに、ヨーロッパで目にした「絵の描かれたハンカチーフ」がとても美しく、印象に残っていたので、それを日本でも作れないかと、依頼された栗造さんが「田辺染工場」として独立創業したそうです。

当時、戦前の日本には絵の描かれたハンカチーフというものは存在しておらず、あるのは無地や刺繍、レースのものくらいだったそうで、そのハンカチーフのプリントというのを日本で初めて加工したのが栗造さんだったそうです。

その後、第二次世界大戦で東京大空襲の直前に、社員一同・一族郎党を引き連れて疎開してきた先が足利でした。戦後改めて朝日染色株式会社を設立し、現会長である恵造さんが継承してきました。

今年が創業から99年、創立で69年という歴史ある会社です。

工場の美しい「のこぎり屋根」が時を経た重みを感じさせます。

 

現社長の雅敏さんは、敏腕経営者という印象で、お話を聞く限りとても多くのアイデアを取り入れ、実践し、工場を大きく成長させています。

もともとは大手アパレルに勤めていて、工場を継ぐ気はなかったのだそう。しかし、社長をしていたお父様の熱意に打たれ、当時最先端のプリントの技術を持っていたイタリアに単身渡ります。

 

朝日染色株式会社 ハンドプリント

 

コモ地区のプリンターに入り1年間 企画~生産~販売 を修業し、その後2年間にわたりミラノで某有名4ブランドのイタリア総代理店にて内地ディストリビューションに携わりマーケティング・ブランディング・プロモーションを学ばれました。

帰国後、先ずは日本とイタリアの伝統を融合させた独自のものづくりを作り上げてきました。

イタリアの伝統と日本の伝統の融合。

職人気質の日本人の伝統手法に合理的なイタリアの伝統手法を取り入れて、生産の仕組みを改革します。

具体的には染めに使う色のりの配合の仕方なのですが、これを誰がやっても同じように再現できる方法を取り入れ、効率化を図りました。実際に作業工程も見せていただきましたが、本当にたくさんの色があるので、作るだけでも大変な作業だということを実感しました。

 

朝日染色株式会社 ハンドプリント

 

そして、プリント生産加工工程の再構築を行いながら、一方、企画を内政化するため、クリエイティブディレクターを企画パートナーとして迎え入れ、提案型オリジナルプリントテキスタイルを直販するテキスタイルブランド“Sol Levante 1918”(ソレヴァンテ1918)を構築。アパレルブランドへの直販事業に進化させていきました。

東京は恵比寿にショールームを構えます。

時代は問屋からただ仕事を引き受けるのではなく、自立した事業を行わないと生き残れない段階に来ていました。この発想もイタリアでは普通にプリント工場が企画提案をしながら経営をしていたことによるそうです。

 

「やっぱりクリエイティブな方が楽しいんです。言われるがままのみの仕事は苦痛です」と田邊社長は語ります。

 

今でも工場が企画をするということは少ないそうですが、まさにその先駆けとなりました。

 

朝日染色株式会社 ハンドプリント

 

現在は大手ブランドの旗艦工場としてプリントを行うほど。お話を聞く中で、誰もが知っているブランドの名前がたくさん出てくるので驚きました。

それだけハンドプリントの魅力や朝日染色の企画力が世に認められているということでしょう。なんとあの草間彌生さんが展示会などで使う赤の水玉のプリント生地も朝日染色のハンドプリントだそうです。

 

朝日染色株式会社 ハンドプリント

 

工場の職人さん、従業員さんも朝日染色の仕事にプライドを持って取り組んでいるように感じました。取材後、みなさんにお集まりいただき集合写真を。

クリエイティブな方が楽しい、まさにそんなものづくりの現場です。

取材にご協力いただいたみなさま、ありがとうございました!

 

朝日染色株式会社 ハンドプリント

 

ソレヴァンテ1918(ショールーム) by 朝日染色株式会社

東京都渋谷区恵比寿南2⁻20⁻1只木ビル3F

03-5773-1550

 

記事は取材当時のものです。