船旅時代に思いを馳せる世界の希少なカバンが集まる「世界のカバン博物館」
世界で唯一ともいえる“カバン博物館”の存在をご存知ですか? 東京・浅草にある類稀な「世界のカバン博物館」には、ヨーロッパの産業革命・19世紀半ばごろから最新のカバンまで、世界のカバンの歴史を一堂に見ることができます。
世界50カ国・550点にも及ぶ希少なカバンのコレクション
浅草にある「世界のカバン博物館」は、実は、スーツケースやキャリーバッグなどの旅行バッグを扱う「エース株式会社」の企業内博物館。1975年に開館した企業内博物館は、当時としてはかなり珍しい存在で、エース創業者である新川柳作氏が創設。1958年の欧州視察旅行の際に立ち寄ったドイツの皮革博物館で、無数に展示されている皮革製品の中カバンはわずか十数点しかなく、物足りなさを感じたことがきっかけだったともいわれます。
館内には、世界約50カ国、550点ものカバンを収蔵。その中から常時270点ほどのカバンが展示されているのですが、“バッグ”と“ラゲージ”の違いは、おわかりになりますか。廣崎館長いわく、バッグは布やナイロンなど、やわらかい素材で作られたもの。ラゲージは、旅で使用することを前提に、旅行用品を運ぶために作られたものという違いがあるのだとか。
1階の真っ白なエレベーターホールには、船旅で使われたであろうアンティークなワードローブトランクが置かれ、カバンファンならずとも、船旅時代を想像させ冒険心をくすぐられます。
スーツケースを分解し部品ひとつひとつがアート作品のよう
7階でエレベーターを降りると飛び込んでくるのが漆黒の闇。トップライトの中に、ぽわっと浮かび上がる展示物。企業内博物館としてはかなり完成された造りで、見る者をカバンの世界へと誘います。
“カバンの歴史”や“カバンのひみつ”、“世界のカバンコレクション”など、5つのエリアで構成されているのですが、ひとつひとつの展示がわかりやすく、しっかりした説明があるので興味も倍増。壁面には、80種類を超える素材の異なるバッグが飾られ、その素材感を実際に手で触れて確かめることも。
スーツケースができるまでを紹介した“カバンのひみつ”エリアでは、スーツケースを分解し、小さな小さなパーツに至るまで、まるでアート作品のようにひとつのビジュアルとして見ることができます。大量生産時代の今となっても、細部へのこだわりがひしひしと伝わってくる内容。良いカバンの選び方やパッキングのコツなど、豆知識なども遊び心をもって紹介されているので、今後のスーツケースやキャリーバッグ選びにも重宝しそうです。
カバンで五大陸巡り! ワニ12匹を使った漆黒トランク&船旅用のアンティークトランク・・・
カバン博物館の真骨頂といえるのは、“世界のカバンコレクション”エリア。ヨーロッパ・アメリカ・アジアなどと、五大陸別に整然と並ぶカバンコレクションは圧巻。
1870年ごろにドイツで作られたキャビントランクは、まるで宝箱のよう。旅の主体が船であった当時の面影を忍ばせる、どっしりとした作りと堅牢性を兼ね備えています。
ヨーロッパのカバンは、現代にも通じるような装飾美とスタイリッシュさを持ち合わせ、赤いジャカード織りが美しいイタリア製のカバン&スーツケースは1960年代に作られたもの。
シマウマのファーが美しいカバンは、1968年に作られたスペインを代表する高級ブランド「ロエベ」のものです。
12匹ものイリエワニを使ったフランス製のキャビントランクは、1978年にカスタムメイドで作られ、現在の価格にすると2000万円もする代物。
ヨーロッパの洗練された美しさに比較すると、シンプルなフォルムと機能性に特徴があるのがアメリカ製。塩化ビニールや合成樹脂などケミカル素材の登場によりカバンも進化し、飛行機による旅のスタイルの変化により、カバンも軽く、大きさもコンパクトになっていることが伺えます。
ところで、スーツケースにタイヤ(キャスター)を付けたのはどこの国だか知っていますか? 実は、日本なんです(タテ形スーツケース。ヨコ型スーツケースにタイヤを付けたのはアメリカ)。小柄な日本人でも重い荷物を運びやすいように配慮したのがきっかけだとか。これが1970年代初頭のこと。
それ以前にも日本初のナイロン製バッグや、50代以上の方には懐かしさ蘇る “マジソンバッグ”など、一大ブームを巻き起こしたエースさんのヒット作も必見です。
エリアの最後にはアントニオ猪木さんや羽生結弦さんなど、著名人が愛用したカバンの展示も。8階にはエース創業者であり、世界のカバン博物館の開館・収集にあたった「新川柳作記念館」も併設されています。次の旅に思いを馳せながら、ゆっくりと見学してみてはいかがでしょう。
Photos:(C)tawawa
記事は取材当時のものです。
世界のカバン博物館
【住所】〒111-0043 東京都台東区駒形1-8-10
【営業時間】10:00~16:30
【定休日】日・祝日
【料金】無料
【アクセス】都営浅草線ほか「浅草駅」A1口よりすぐ