素材の物語と魅力を引き出す、「SAEDECO」の心ときめくものづくり
「好き」を見つけた瞬間の、ときめきやドキドキ感。その気持ちをそのまま濃縮したかのような「SAEDECO」の作品を身につけると、これまでの自分や、世界が少しだけ素敵なものに見えてくるかもしれません。
SAEDECOの早川紗枝さんが手がけるのは、ヴィンテージのボタンや糸のアクセサリー、季節の花や木のフラワーアレンジメントなど。
「好きな素材と出会ったときの、ドキドキ感やワクワク感。それがそのまま作品のインスピレーションになっています」と、早川さんは話します。
作品に使われている素材は、早川さんが暮らしの中で偶然出会ったものから、遠く離れた外国からやってくるものまで様々です。見た目の美しさだけでなく、それらがどのように生まれてどうやってここへやって来たのかという“物語”を知ることが、ものづくりの大きなインスピレーションになっているそう。
アイヌ語で「鹿」を意味する「YUKU(ユク)」というシリーズは、真っ白な滑らかさの中に力強さを併せ持つアクセサリー。
素材に使われているのは、北海道の苫小牧(とまこまい)の森に棲む鹿の角。早川さんがSAEDECOを立ち上げたばかりの頃、小さな息子さんと一緒に参加していた「森のようちえん 谷保のそらっこ」の活動で、はじめて苫小牧を訪れたとき、この素材と出会いました。
「苫小牧の森は、素晴らしい素材の宝庫でした。夢中になって拾い集める私に、現地の人々は “一体何にそんなに魅力を感じているんだろう”と首を傾げている様子で。でも、私が森のものに心底ときめいている気持ちが伝わったのか、後日素材がどっさり詰まった箱を送ってくださったんです。その中に、この鹿の角も一緒に入っていて」
北海道では「鹿を狩って食べることは、森を守ること」とも言われています。鹿と共生しながら、増えすぎないよう狩ることを生業にしている猟師さんの想いや、そこに暮らす人々の手で守られてきた美しい森の風景が、YUKUシリーズには込められています。
YUKUの売上の一部は、森の保全活動を行う「苫東・和みの森運営協議会」に寄付され、北海道の人々と早川さんの交流もずっと続いているそうです。
「なんでもない、捨てられてしまうようなものでも、ひと目見た瞬間ときめいたり、辿ってきた物語を知って心奪われたりすることがあります。そういうものたちと向き合いながら、その魅力を最大限に引き出すことが、私にとってのものづくりです」
人と向き合い、素材と向き合いながらものづくりを続けているうち、早川さんのもとには自然と物語を持った素材が集まってくるようになりました。
チェコの小さなアトリエで、木型の成型から着色まで全て職人の手によって作られている猫のボタン。地元の人に長く愛されてきた桜の並木道で、寿命が近づいたために伐採されてしまった桜の木。古い商店街で、惜しまれつつも閉店してしまった手芸店のレトロなボタン。北海道大樹町の海に流れ着いた、立派な白樺や蔓の流木。
近所のガーデナーさんが剪定枝をアトリエの玄関に置いていってくれることもあるそう。
そんなSAEDECOの作品は、東京都国立(くにたち)市にある古い蔵を改装したアトリエでの展示会をはじめ、イベント出店でのみ手に取ることができます。
東京の真ん中とは思えないほど静けさと緑に包まれたアトリエでは、毎年12月になると、早川さんが心からときめいた冬の素材のみを集めたワークショップ「冬の森の壁飾り」も開催されます。
2018年の冬には、あすなろ、オレゴンモミ、アイスブルー、ヒバ、バーゼリア、リュウカデンドロン、ブラックベリーなどの素材が世界中から集められました。それらをひとつの小さな森のようにまとめたスワッグは、1年経つと立派なドライフラワーになるのだとか。
「ひとりひとりのお客さんに、素材の持つ物語を届けたい。私が大切にしていることは、たくさんの数を作って売ることではなく、素材と向き合い、その物語にときめいて、自分がワクワクできるものづくりを続けていくこと。作り手がどんな気持ちで作っているのかは、手に取る人にも必ず伝わるものだと思っています」
どのように生まれて、どのような物語を歩んできたか。素材の物語は、まるで人の一生のようにも思えてきます。
「展示会では、作品が出会うべき人と出会って、あるべき場所へ旅立っていくような感覚を覚えることがよくあります。その人自身とアクセサリーが出会うことで、それぞれの新しい魅力を引き出しているような、そんな出会いをされる方が多いです」
SAEDECOの展示会で「好き」だと思う作品を見つけたとき、そこに使われている素材は、どこか自分に似た物語を持っているかもしれません。
記事は取材当時のものです。