神秘的で素材を活かした器 ろくろ形成にこだわった陶芸家 西隆行さんの「雫シリーズ」

西隆行

 

佐賀県の有田の伝統的なロクロ技術をベースにした磁器の作品。現在では型は石膏で作られることが多い中、今回ご紹介する作品は昔ながらの土型を使って製作しています。そんな素材を大切にしたものづくりを行っている西隆行さんにお話を伺いました。

 

西さんは1年ほど前に佐賀県西松浦郡有田町南山に工房をかまえました。

 

陶芸・工芸とは素材・技法を深く理解し、素材・技法によって作り出される造形・素材感の魅力を生かし作品を創ることだと西さんは話してくれました。

 

単純に器を作るだけでなく素材の魅力を生かしより良いものを作れるよう日々の努力を怠りません。その作品は独創的で見る人を惹きつけるとても魅力的な器に仕上がっています。

 

西さんが特に大切にしていることは、ものづくりをするうえでの素材感です。その素材が魅了的に見える表情や造形を作れるように意識して制作しているそうです。

 

そんな素材感を大事にして作られている作品の中でも特に代表的なものが「雫シリーズ」です。

 

西隆行

 

雫シリーズはオリジナルの青磁釉(雫釉)の表情が特徴的な作品です。釉は窯の中で高温(1200℃~1300℃)になると溶けて液体状になり流れ出します。温度が下がり冷えると固まり、流れた形状をそのままに維持します。

 

まるで時が止まったかのような液体の自然な流れを表現していて、どこか涼しげで動きのある表情です。液体の自然な流れなので一つ一つ表情が違うそうです。作為的でない液体の自然な表情をとらえた作品ですね。

 

西隆行

 

器はロクロ成形で一つ一つ造っているとのこと。有田の伝統的なロクロ技術を基本にした磁器の作品です。器の下半分は焼締で磁土そのままの質感を活かしています。釉のかかっている部分の涼しげな表情と、焼締めの磁土の部分の滑らかな質感との対比がより作品を引き立てています。

 

焼物は焼成する事によって完成します。一度自分の手を離れ炎によって変化し自然にまかせることで、化学的に変化して、まったく違う物になって出てくる焼物。そこが難しくもあり一番の魅力だと西さんはお話ししてくれました。

 

西隆行

 

西さんは作品で焼成による変化の面白さ、素材の持っている特性、それらを生かした作品作りを心がけています。(轆轤型打ち)・ロクロ型打ちの作品は、一度ろくろでひいた皿を少し乾いた状態の時に型に打って変形の器を作る伝統的な技法だそうです。

 

西隆行

 

最後にこれからの展望について伺いました。

 

作品を手にすることでお客様に喜んでいただけると嬉しいです、と西さん。そしてもっと多くの方に見て頂き、使っていただける機会が増えるようにしていきたいたいとのことでした。

 

繊細かつ儚げな美しさを持つ雫シリーズがこれからどんな人との出会いを運んでくれるのか楽しみですね。西さん、ありがとうございました。

 

陶歴

1984年8月   生まれ

2008年3月   福岡大学工学部建築学科卒業

2009年4月   有田窯業大学校専門課程陶磁器科入学

2010年10月   佐賀大学『ひと・もの作り唐津』プロジェクト参加

2011年3月   有田窯業大学校専門課程陶磁器科卒業

2011年4月   有田窯業大学校 助手就任

2012年12月   佐賀大学『ひと・もの作り唐津』プロジェクト卒業

2013年3月   有田窯業大学校 助手退任

2013年10月~  独立支援工房「赤絵座」にて作陶

2016年2月    有田町南山に工房をかまえる

 

第111回九州山口陶磁展 熊本放送賞受賞

2014年伊丹国際クラフト展 入選

第112回九州山口陶磁展 入選

高岡2015年クラフトコンペ 入選

2015めし碗グランプリ 入選

 

記事は取材当時のものです。