「いきもののおまじない」ミロコマチコさん展示会で感じた動物たちのいのちの力強さについて
アルフレックス東京で2017年10月19日(木)から10月31日(火)まで行われていた新進気鋭の絵本作家・アーティストのミロコマチコさんの展示会にお邪魔してきました。インテリアのショールーム空間での、アートとインテリアの融合を目指した新しい展示会のスタイルで、arflex / LIFE with ART project (curated by noie.cc)と称し、ジャンルも表現も様々なアートの展覧会やイベントを定期的に開催しています。
ミロコマチコさんは、1981年大阪府生まれ。生き物の姿を生命力あふれる力強さで表現し、国内外で個展を行っています。絵本『オオカミがとぶひ』で第18回日本絵本賞大賞を受賞。『てつぞうはね』で第45回講談社出版文化賞絵本賞を受賞。『ぼくのふとんは うみでできている』で第63回小学館児童出版文化賞も受賞されています。
最新作は絵本『まっくらやみのまっくろ』。その他の著書に画文集『ホロホロチョウのよる』、画集『けだらけ』、『ねこまみれ帳』など精力的に活動。2015年、絵本『オレときいろ』でブラティスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ(BIB)金のりんご賞を受賞、2017、絵本『けもののにおいがしてきたぞ』で同原画展金牌受賞。Eテレ『コレナンデ商会』に作画で参加。現在、展覧会「いきものたちの音がきこえる」が全国を巡回中。
初日には様々な「音」をバックに、ミロコマチコの「絵」と山フーズ主宰の小桧山聡子さんとの「食」のセッションが開催されました。ミロコマチコさんの伸びやかなライブペインティングと小桧山聡子さんの見た目にも美しい料理がなんとも幻想的な世界を生み出します。
そんなミロコマチコさんにインタビューさせていただきました。
インタビュー当日は、夜にライブがあるので、少しの緊張感とワクワクしているとのこと。
早速ご挨拶させていただきましたが、子供たちとのワークショップで作った大きな絵を名刺サイズに切った手作りの名刺がとても素敵で思わず感動してしまいました。
ミロコさんの活動は絵本が原点。絵本を作りたくて絵を描き始めたそうです。初めは絵本を作りたい人とのグループ展に出展。ミロコさんは一枚絵を出展したのですが、それを見たギャラリーの方が個展をやってみませんかと声をかけてくれたことをきっかけに、今のような一枚絵を描くことになったそうです。
絵本じゃない絵も楽しいなと思い始めた頃、縁あって次々に展示会のお話が舞い込んできたんです、とミロコさん。実際に絵本が出版されたのは少し後になって、展示を見に来てくださった編集者の方に絵本を出しましょうというお話をいただき、現在のように絵本が出版されることとなりました。
絵本と一枚絵はどちらも同じように重きを置いているというミロコさん。どちらも重要な役割なので並行して続けていきたいとお話ししてくださいました。
ミロコさんの作品にはしばしば生き物が登場します。生き物に対する愛着について、伺ってみました。
ミロコさん自身は生き物と近しく暮らしてきたわけではなく、むしろ遠い存在だったと言います。だからこそとても憧れがあって、自分自身がすごく野生的なところからかけ離れていると感じているそうです。
それに対して生き物は生きることに必死で、自分に何が必要で何が必要でないかをちゃんとわかっている。そういう姿にとても憧れがあるのだとか。
影響を受けるのはやはり生き物そのものの姿。動物はもちろん、植物や海も生き物に含まれると考えているそうなので、大きな意味での生き物ですね。
たとえば雑草が太陽に向かってのびのびと生えている姿、太陽に集中しているその姿に心動かされる。放っておいたのに芽が出ているとか、生命力がそのいきものに染み付いている、本能で芽を出しているそういうものを目にした時に感動するそうです。
また絵本を手に取った人には、ちょっと新しい発見があって、その世界をもっともっと絵本を飛び越えて、読み終わった後も続きを想像して遊んでみてほしいと考えているそう。続きを自分で考えてしまったとか、子供達はきっと自然にやっていることだけれど、そういう姿を見るとすごく嬉しいですね、とミロコさん。
絵の場合は今回おまじないという言葉を使っていますが、おまじないは信じることで、非科学的なこと。四つ葉のクローバーを見つけたりとか、そういうのを信じることができるのって人間だけだと思うんですよね、と今回の展示会のコンセプトについてお話しをしてくださいました。
絵って色とか形とかがあるものだけれど、なんだかこの絵に惹かれるとか、元気になるとかっていうのは、目から見えること以上のことを感じているんだと思うんですよね、と。それぞれに想像してそれを信じているというか。だから家に飾りたいと思ってくれたりとか、何度も見に来てくれたりとかいうことがあるんだと思う。そういったことを私の絵から感じてもらえれば一番嬉しい、とのこと。なんだかわからないけれどこれ好きなんだよな、というのは、何か見えている以上のものがあると思っていて、それ以上のものを感じてくれると嬉しいのだそう。
それにはミロコさん自身がすごく信じて描いてないといけない、と言います。なので見る人が感じる以上の力を込めないといけない。でも夢中になって絵を描いていることで結構力がこもっていると思います。と少し楽しげにミロコさんは話してくれました。
動物に対する憧れがあるというミロコさん。では人間についてはどう思っているのか伺いました。
それに対して、人間はいろいろ忘れた代わりにいろいろ得たものもあって、遊んだり、おまじないをかけたり。そういう意味では人間も動物で、すごく好きなんですけれど、個人的にはもっと動物的になってほしいな、と思うそうです。
人間が忘れてしまった動物的な部分、ちょっと私自身にも響く言葉でした。
最後に、この先やってみたいことについて伺いました。基本は今まで通り絵本や絵を続けていきたい。絵本の世界ってもっと広いと思うんですよ、とミロコさん。
まだまだ表現できることがあったり、それに挑戦したいなと思ったり。絵に関してはいまテーマとして海っていうものがあって、難しくてなかなかいい海が書けなかったけれど、これから海に挑戦してみたいと思っているそうです。特に奄美大島から大きなインスピレーションを得たようで、何度も足を運んでいるのだとか。ミロコさんは、海は怖いんですよ、泳げないけれど、でも怖いものともう少し近づきたい、と言います。なぜかというのはわからないんですけれど、ちょっと海と戯れたいと思っているそうです。
怖いものや知らないものを知ることって少しだけわくわくしますよね。まだまだ知らないことがたくさんあることに私も時々途方にくれることがあります。
ミロコさんの世界はそんな人間の悩みを払拭してくれるような、力強さ、躍動感があります。見ていてとても勇気付けられる、そんな気がしています。
10月28日にはharuka nakamuraさんのピアノと共にライブペインティングが行われました。大きなセットが組まれ、とても楽しい夜の時間になりました。
photo by Yuichiro Tamura
とても心地よくて新しい展覧会でした。ミロコマチコさんのこれからの活躍にも期待したいですね。取材にあたってご協力いただきました皆様、ありがとうございました。
インタビュー記事は取材当時のものです。