植物の命の色を表現する。蔵前「MAITO/真糸」で出会う驚きと伝統技術ならではのぬくもり
植物など自然のものを使って染める「草木染め」をご存知ですか? この伝統的な染めの技術にはたくさんの発見と物語が存在しています。植物の命をいただいて染め上げられた布は、それぞれに個性的で、ぬくもりある色を持っています。今回は草木染めのアイテムを提案している「MAITO DESIGN WORKS」に伺いました。
一歩店内に足を踏み入れると、あたたかみのある色とりどりの靴下、ストール、ニット、バッグなどが並んでいて心が弾みます。これが全部自然のものから染め上げられたかと思うと、ただただ驚きです。
そもそも「MAITO/真糸」とは
代表の小室 真以人さんが立ち上げたブランドで、ご自身のお名前をブランド名の由来にしています。
「自分の名前をブランド名にしているんですけど。ちなみにこれ本名です。だけど、ブランド名としては「真糸」としてコンセプトにしています。本当の糸づくりを、糸偏の仕事(編んだり織ったり、染めたり、繊維にまつわる仕事のこと)を真面目にコツコツやろうというのが僕らのコンセプトなので。もともとは家が機屋で、丹後ちりめんの家系でして、父の代から染物屋をやり始めたという経緯があったりして、小さいころから染物や織物がすごい身近にあったんですね」
でもその糸偏の仕事が衰退していっている現状があるそうです。小室さんは辞めてしまわれる職人さんを目にして、やはり寂しいなという想いがあります。
「僕らは一人じゃ絶対ものづくりってできなくて、布の人は糸紡ぐ人がいたり、染める人がいて、織ってくれる人がいて縫ってくれる人がいて、それで初めて形になるので、一人じゃできないんですよ」
そこで糸偏の人たちが仕事を続けられるように、なにができるのかを考えています。現状の問題を伝えるのも必要だけれど、産業全体をどうやったら回していけるのか、その課題に取り組んでいます。
「作り手がいなくなっちゃうと僕らも困る。将来的に何もできなくなっちゃうので、自分なりのやり方でみんなの仕事を回していかないといけない」
日本各地の作り手さんに支えられながらものづくりをしているので、まず全国各地直接足を運び、職人さんの顔を見て、声を聞くところが始まりなのだそう。自社のアイテムをただ生産するだけではなく、産業全体の活性化を促すためにできることは何か? を問い続けています。
「いろいろなお洋服とか生地のものづくりをしている方たくさんいるんですけれど、同じことをしても食い合ってしまうだけなので、逆にそのほかの人たちがやっていないことをやって、新しい需要を作っていって、みんなで一緒に底上げしようねって、そういう風な形でやっていけたらいいなって思いながら作っていますね」
そこで自然のものだけを使って色を染める、草木染めを主力にブランドを立ち上げます。いまでは珍しくなってしまったけれど、伝統的な歴史と物語のある染め方なのだそうです。
「僕らは草木染めと呼ばれる自然のものだけを使って色を染めるっていうのをメインでやっているんですね。これは昔は当たり前の手法だったんですけれど、明治初期ぐらいから化学染料が日本に入ってきて、今では少なくなった、ちょっと古い、忘れられちゃった技術なんですね」
化学染料というのは繊維界における産業革命と言ってもいいくらい、全く今までの染料と違っていて、本当に便利なのだそうです。もちろん化学染料の良さというものあるけれど、草木染めにはいろいろな物語があったり、色のあたたかみがあったりというのを含めて、小室さんは草木染めにとても魅力を感じているそう。
その伝統の技術を絶やしてはいけないなという想いもあって、草木染めを続けることは自分の使命だと感じていると語る小室さん。
でもただ草木染をして作品を売るだけでは受け入れてもらえない、伝統的な手法であっても、若い世代に受け入れられるものづくりが必要だと小室さんは考えました。
「普段使いできるものを草木染めで作ろうっていう。若い人にも親しみやすいものづくりをしていこうと考えました」
業界の底上げを目指し若くして企業されていますが、やりたいことは昔から定まっていたのでしょうか?
「そんなことないです。全然そんなことないです。ただ、勉強嫌いだったんです。知恵とか知識とかを得ることはすごい好きなんですけど、興味のないことはとことん興味がないというか、結構そういうところがあって。でも作ることには昔から興味があったんでしょうね」
宇宙飛行士よりも大工さんや蕎麦屋さんになりたいと子供の頃は考えていたこともあるそう。ものづくりには子供の頃から興味があったのですね。
その後、東京藝術大学に入学。そこで自分の将来の道しるべを見つけることになります。
「最初、糸偏に入ることにはそんなに考えてはなかったんです。でも素材を触る仕事というのはすごい好きだったですね。でも元々定まっていなくて。東京藝大に入った時に、工芸科という科だったので、いろいろな素材を触らせてもらえたんですね。陶器から、金属から、ガラスとか木工とか、いろいろ触らせてもらって、やっぱり染物が、布が、自分の中では肌に合ってるな、というのを感じて、そのタイミングでテキスタイルにしようって絞りましたね」
さらに小さい頃の環境も今のお仕事に影響を与えているそう。
「自分は福岡の秋月という田舎育ちだったので。元々は品川に住んでいてもやしっ子だったんです。でも小学校3年生の時に、田舎に引っ越したんですね。月明かりしかない、みたいな。すごいいいところで、同級生もいいやつばっかりで、生活というか、景色が変わって、遊び場が変わって、季節によって山の色が変わったり、いろいろな自然の変化を多感な時期に感じることができたっていうのはすごい良かったなって。宝物だなって思っています」
自然のなかで、色々な季節の移ろいを目にして、東京にはない様々な景色を知ったことが、現在にも大きく影響を残す宝物だと小室さんは嬉しそうに語ります。
「僕らの草木染めっていうのも、野山にある色を、この東京でも見てもらいたいい。本当の色を見てもらいたいというのがあるので、幼い頃の環境がベースになっているなっていうのは良かったですね」
人の縁で繋がった蔵前のショップ
2010年に東京都台東区上野の2k540に直営店をオープンされてから、蔵前にアトリエショップをオープンされていますが、蔵前の土地柄にも惹かれたのだそう。
「台東区っていうのは僕好きみたいで。大学もこっちにあったので。ある時、蔵前がこれから面白くなるよっていう話があって、蔵前のカキモリさんとかエムピウさんとかと飲んでいて、「うちもこっち側に作るところ欲しいんですよね」って言ったら「蔵前くればいいじゃん」って言われて。1年くらい物件を探して、お店と事務所、ちっちゃいラボみたいなのがあればと思って。ご縁があってここにたどり着きました。本当に蔵前の人たちは仲が良いし、人が人を呼んでいるので、本当にそんな感じですね。蔵前に来て4年以上経ちます」
蔵前のショップでは定期的に草木染めのワークショップも行われていて、精力的に活動なさっていますよね。
「できあがった商品だけを見てもらうのもいいけれど、なかなか伝わらないというか、せっかくなら一緒になってやってもらおうと思って。ワークショップの目的というのは、こういう作り手の人が織ったんだよ、とか、この植物で染めたんだよって。すごいね、楽しいねって言ってもらって、何か考え方が変わったりとか、そういうきっかけになればいいなと思って」
「草木染めを経験してもらって、自分たちも家でやってもらえればそこからまた広がっていくじゃないですか。生活がそれだけでも豊かになったり、そこからまた作家活動とか、ブランドやるってなったら素敵だなって」
「別に技術って誰のものでもないし、僕の特許じゃないし、それはやっぱりみんなに知ってもらって、でも個人じゃできないことってあって、そしたらプロが逆に教えてあげて、僕らがやっている仕事が増えていくことがあるじゃないですか。学校ではないのだけれど、時間はかかるけれど、種をまいていくようなことをしていかないといけないなと思って」
ただ思い出作りになるようなさらっとしたワークショップではなくて、実践的に身に付けられるような本格的なワークショップを行うというのが小室さんのこだわり。
「やるからにはきっちり、ちゃんとその人たちがやってくれれば家でできるようにまで、覚えて欲しいなと。あくまで経験して、家でできるまでにならないと意味ないじゃんって思って。そうじゃないと結局は広がっていかないなと」
ワークショップも精力的に展開されているMAITO/真糸ですが、お客様にはどんな風に草木染の商品を楽しんでもらいたいですか?
「楽しみ方はそれぞれだと思うんですけれど、ファッションではないんですよね。僕は素材とか、人とかが好きで。それを作ってる人とか、それを形成している空気とか歴史とかそれに興味があって、そっちに魅力を感じていて」
「ひとつ草木染めのうちのアイテムを通すことによって、例えば桜でこんなピンクが出るけれど、実はこれは小枝から取られたピンクなんですよと。桜の中にこんなピンクがあるんだなって驚きますよね」
「でも実は花が咲いてしまったら枝の中にあるピンク色はなくなってしまう。そしてまた、夏から冬にかけてピンク色を蓄積して行って、花を咲かせる。実はこのピンク色って花を咲かせるための力がそのピンク色なんですよね」
実際商品を見せていただいて、本当にきれいな淡いピンク色なのですが、それが桜の中に蓄積されている生命力なのだなと思うと、本当に神秘的ですよね。
「成長が元気な植物は黄色みが強かったり、そういうのを見て「生きてるんだな」って自然を感じるじゃないですか。水によって色が違うとかも、それぞれ感動がそこかしこにあるんですよね。そういうのを何か一つ感じてもらえれば、生活がもうちょっと楽しくなるかもしれない。発見の一助になれば嬉しいなって思います」
草木染めをしていると毎回発見があるのだそう。意外な色に染まったり、そんなドキドキがあることが楽しくて、それを一緒に体験できたら嬉しいそうです。
「日本の歴史みたいなものもあって、昔は季節によって見える色が違ったり、空の色が違ったり、光の色が違って、目に飛び込んでくる色が違う。その植物の色を他の季節も見たいからと思って、染物が発達したり。そういう物語とか背景があって、同じ赤を見ていても現代の赤の捉え方と、昔の赤の捉え方が全然違ったんだよっていうことに想いを馳せるだけで、面白い」
これからの「MAITO DESIGN WORKS」
「草木染めが中心ではあるんですけれど、いろいろな人が関わってやっているんですね。やめちゃう方もここ最近多くて、機械をどうしよう、もったいないなって思っていて。いますぐ僕が継ぐことも人を送り込むこともできないけれど、それってすごい悲しいなって思って、できれば早く動いてその機械とかだけでもどっかに置いて、少しずつ動かしながら人を若い人を育てていって、そういう風な糸偏だけが集まったファクトリーみたいなものがやりたくて。いまその準備中ですね」
東京では土地的に厳しいけれど、地元九州ならそういったファクトリーを作ることができる。機械は壊されてしまったらもう作れないものも多く、それをどうにか保存して後世に残していきたいと考えているそうです。
「全体の産業のことを考えながら、やっていくっていうのも大事だなって思っています。現実問題機械がなくなっちゃうっていう前に、機械を保存するとかちゃんとした活動もしていかないといけないんだなと思っていて。全部が全部できるとは思わないけれど、なんとかこう残していって、覚えていって、職人さんに向いている人たちを教えてあげたり、食べていけるような環境まで作っていかないと。それで人が育っていったらいいなって」
産業全体のことを考えて活動を広げていっているんですね。
「古い機械を僕らがなんとか手に入れて、なんとか保守して、覚えて、独立すれば稼げるじゃないですか。なんか、そういう風な仕組みに持って行きたいなっていうのがありますね。職人さんっていうのは作った数=売り上げだから、いい素材のものを作ろうが、そこそこのものを作ろうが、職人さんに支払われるお金って変わらないんですよね。そこは職人さんはコントロールできないので、僕らがバランスをコントロールして考えていかないと。それで仕事をちゃんと回してあげて、ご飯が食べられるっていうそこまで持っていかないといけない」
「昔は職人さんに夢があった。今はその夢がないじゃないですか。夢がないと続かないよね。だから僕らが夢を作ってあげないと、と思います」
小室さんが作る夢は、どんな形になるのでしょう。楽しみですね。作り手の人たちがこれからも仕事を続けていけるように、また新たな作り手が生まれて、産業全体が持続していくように、様々な取り組みに挑んでいます。
記事は取材当時のものです。