木から生まれた架空の森の動物たち。「KIYATA」の物語るものづくり。
今にも何かを語りかけてきそうな表情で、こちらを見つめる動物たち。まるで物語の世界から私たちの日常にやってきたかのよう。「KIYATA」の展示会で実際に目にすると、それぞれが感情を持っているような気がして目が離せなくなってしまいます。
“森の奥深く、人間以外の者達が来る者をもてなしてくれている場所、そこにあるものは……”
KIYATAの作品は全て、そんな物語の中から生まれています。
KIYATAは、木工作家の若野(もしの)忍さんと、奥さんの由佳さんによる木工ユニット。
「デザイン、制作は私がやっています。妻は、ダメ出し、サポート、スタッフの牽引役などです。電気グルーヴの石野卓球とピエール瀧みたいな関係です」と、若野さん。
若野さんは、東京造形大学を卒業したあと、現代美術の作家としてアーティスト活動をしながらパブリックアート企画の会社で働いていました。立体作品と平面作品を組み合わせて、ギャラリー空間に自分の中の神話や物語を表現していきながら、ふと、「暮らしのインテリアの中にもその物語を展開できないか」と思いついたそうです。
やがて独立した若野さんは、木工作品の世界に没入。そして2008年にKIYATAを立ち上げます。
「パブリックアートの会社で様々な建築家、アーティスト、デザイナー、クラフトマンと仕事していたことでボーダレスな感覚が身についていたこと、素材や技法、とくに木工などの自然素材を使う表現に触れた影響は大きかったです」
物語性や奥行きのある作品表現は、パブリックアートに携わってきた経験も大きく影響しているのですね。
KIYATAの森の中で暮らす動物たち。若野さんたちはそこで採集の旅を続けるキャラバンの一行のように、ものづくりを続けているそう。
「この作品は、どんな物語のワンシーンなんだろう?」
「この動物はどんな暮らしをしているのかな?」
そんな想像をしながら眺めているうち、いつの間にか自分までKIYATAの物語の中に入りこんでしまっているかもしれません。
KIYATAの木彫作品は、ランプやバスケット、時計や鏡、ステーショナリーやアクセサリー、子ども椅子など、暮らしの中にさりげなく寄り添うようなアイテムばかりです。
「使い勝手に優れていることや技術が優れていることに重点を置く素晴らしい作り手たちもたくさんいますが、私たちがとても大切にしている点は、“物語を想起させる力がある”ということです」
物語を想起させる作品を生み出す。そのためには、生産力を捨ててひたすら手で彫っていくということも重要な過程なのだといいます。
「何度も個展を重ねるたび、私たち自身もKIYATAという物語の中を探検していることを感じます。この先もこの探検が続いていって、やがて架空の民族史や、地図になるような世界観を作り上げていけたら楽しいですね。何年経っても、何歳になっても、いつまでも心ときめくような作品であり続けられたらと思います」
KIYATAを愛するお客さんは、動物たちが生まれ育ったその世界そのものを愛しているのかもしれません。
KIYATAの世界を旅するキャラバンが出会ったものやことに合わせて、展示会のテーマも変わります。ぜひ、森の中を探検するような気持ちで訪れてみませんか?
そこで気に入った子と出会ったら、家に連れて帰って一緒に暮らしてみると、また新しい物語がはじまります。
「家具として使い勝手のよろしいものでもないので、出来の悪い家族のように文句でも言われながら、それぞれの家で名前を付けられたりして、末長くかわいがってもらえたら嬉しいです」
若野さんはそんなふうに、旅立つ動物たちへの想いを語ってくれました。
KIYATA国物語Ⅴ「常世の森」
会期:2017年11月28日(水)〜12月9日(日)
営業時間:12:00–23:00(22:00 LO)
定休日:月・火
会場:手紙舎 2nd STORY(東京都調布市菊野台1-17-5 2F)
tel:042-426-4383
記事は取材当時のものです。