伝統を世界へ羽ばたかせる 進化する木目込人形というものづくりのこれから

 

「木目込人形」という伝統工芸で作られる人形をご存知ですか?元々は木のベースに布を挟み込んで作られている手法から「木目込」と呼ばれる人形で、主におひなさまや五月人形などで目にすることができます。粘土を造形するので、形の美しさや動きをつけることができるのが特徴です。今回はそんな木目込人形を1950年から作られている柿沼人形さんにお話を伺ってしました。

 

柿沼人形を知ったのは、百貨店での展示でのこと。かわいらしく美しい布で作られた招き猫や、和柄の布を組み合わせたトレイなどが目を引きました。そこでぜひお話を伺いたいと思い、実際に柿沼人形にお邪魔したところ、数多く手がけられているのはおひなさまや五月人形でした。

 

 

私が知っているおひなさまは着物を重ねどっしりとした人形だったのですが、木目込で作られたおひなさまは少し小ぶりながらも軽やかで華やかな印象でした。五人囃子も軽やかな動きがあったり、躍動的なのは木目込ながらの強みでもあります。

 

 

しかしながら、おひなさまも五月人形もそう言った節句人形はここ20年くらいの少子化で需要も減ってきているのだそう。親御さんのひな人形をそのままお子さんにということも多いそうですが、節句人形というのはその子の厄を背負ってくれるもの。できれば新調してあげるのが、おすすめなのだそう。

 

やはり住宅事情もあって、だんだん小ぶりなものが主力になってきていたり、木目込の伝統的な描き目をという細い目の表情よりも目をぱっちりさせたものが人気だったりと、現代風に試行錯誤しながら商品を開発してきています。

 

そして何より、木目込人形にはたくさんの職人さんが分業で関わっています。顔を作る職人さん、胴だけでも別の職人さん、実際にお着物を木目込む職人さん、華やかな小道具を作る職人さん、背景の屏風を作る職人さん…そういった職人さんの仕事を絶やさないためにも、今回柿沼人形は東京都の事業に参画し、新たな商品開発に乗り出しました。

 

 

それが、私が目にした招き猫や木目込のトレイだったのです。木目込という伝統自体が若い方に認知されていないいま、その伝統を知ってもらいたいと、そんな気持ちで新しい挑戦にも積極的に関わっています。

 

手に取っていただいた方には、やはりひな人形というものはいろいろな伝統工芸の集約なので、その細やかな魅力を感じて欲しい。怖がらずに手に取って触ってみたり、お子さんの成長に合わせて一緒に飾り付けをしたりと、写真とともに成長の変化を楽しんでもらえれば。

 

そして成長した際には工芸や美術に興味を持ってもらいたい。伝統工芸を絶やさないためにも、たくさんの方に知ってもらいたい、と柿沼さんは語ってくださいました。

 

やはり伝統工芸を目にする機会が少ない昨今。百貨店で展示をしても、上層階に足を運んでくれる方はごくわずか。そしてお子さんが生まれるタイミングでないと購入してもらえなかったりと、なかなか厳しいというのが正直な現状なのです。

 

 

そんな中で今回柿沼人形が参画している「東京手仕事」という新しい試みはチャンスでもあります。

 

これから先は、新しく考案した招き猫などをきっかけに、木目込を日本人みんなに知ってもらいたい、そしてゆくゆくは海外の方にも「木目込」という言葉、伝統を知ってもらえれば。いまでも海外の方がお買い求めくださることもあるのだとか。

 

 

 

ぜひみなさんもこれを機に、木目込人形を知ってもらえるとその魅力に驚くと思います。編集部でも木目込の手鏡が人気ですが、とてもすてきな作品です。これから進化してゆく伝統工芸の未来にも注目したいですね。

 

記事は取材当時のものです。