色彩と光が織りなす美しきガラスペン 「川西硝子」の魅力とは
まるで芸術品のように美しく、きらきらと輝き見る者を魅了して止まない「川西硝子」のガラスペン。その繊細さとデザイン性の高さ、そして書き心地の良さから、国や世代、性別を超え多くの人々に愛され続けています。今回は栃木県宇都宮市に工房を構える、川西硝子の代表でありガラス職人である川西洋之さんに貴重なお話を伺いました。
20歳の頃より世界中を旅していたという独特な経験を持つ川西さん。10年を超える放浪生活の中でガラス細工と出会ったことが今に至るそもそものきっかけなのだそうです。とても気になるバックグラウンドをお持ちですが、まずは川西硝子で作られるガラス細工について詳しく見てみましょう。
川西硝子では、ホウケイ酸ガラスと酸素バーナーから生み出される、非常に透明度の高いガラス細工が制作されています。ホウケイ酸ガラスとは二酸化ケイ素にホウ酸を混合したもので、軽量ながらも耐熱性があり割れにくい、実用性のある素材です。ビーカーなどの耐熱ガラスに使われることでも知られていますね。
ですがホウケイ酸ガラスは一般的なガラスに比べ融点が非常に高く、川西硝子の工房では毎日約2,000度にもなる炎と向き合いながら制作がされています。また美しい色はフューミング(純金と純銀を吹き付けてガラス内部に閉じ込めることで様々な色合いを発色させる着色技法)という技法を用い、独特な表情を出しているのです。
過酷な環境下で一本一本手作業で生み出されることを思うと、川西さんのものづくりへの熱意がこの繊細なガラスペンから伝わってくるようです。
川西硝子のガラスペンの魅力は一言では伝えられませんが、特に注目いただきたいのがこだわりのペン先。ペンとして最も重要な部分であり、インクを湛える細かな溝一本一本に至るまで手作業で制作されます。ペン先を360°加工することでどの面でも書けるようになること、またペンの重みだけで滑らかに線が引けるよう重心や溝の本数も考えられていることなど、さまざまな工夫が。
そして以前から弱点として言われていた”ガラスペン独特のカリカリした書き心地”から解放された川西硝子のガラスペン。ペン先の研究を続け、一度インクを付けると約300~500文字の連続筆記が可能になったという実用性の高さは驚き。ぜひお試しいただきたいです。
そんな川西さんが数あるガラス細工の中でもガラスペンを作るようになったきっかけは、ガラス作家である友人とコラボ作品を作る機会があり、その際にガラスペンを作ったことなのだそうです。続いて、川西硝子のブランドコンセプトについて伺ってみました。
ブランドコンセプトを考えたことは無かったのですが、改めて考えてみるととても難しいですね。例えば「実用できるアート」、「機能美と見た目の美しさを兼ねた作品作り」、「少しでも良いものを一本でも多く」などでしょうか、と川西さん。そして作品作りで大切にしている事は、機能性、書き心地の良さ、最近では季節感を意識する様になった事だと語ります。
お言葉の通り、川西硝子のガラスペンを手にすると本当にアートのようで、ものを書く手先も美しくなったように感じられます。まるで魔法にかけられたよう!
そんな素敵な作品を生み出す川西さんという人物自体にもとても興味が湧き、世界を旅していた頃の貴重なエピソードについて詳しく伺ってみました。
20歳の頃から11年ほど旅中心の生活を送っていました。たくさんの思い出がありますが、その中で一番に言わなくてはいけないことは、ガラス細工との出会いでしょうか。カナダのバンクーバーでホウケイ酸ガラス細工に出会いました。
それ以外では、蝶々を見たくてアマゾンやニューギニアなどのジャングルを彷徨った事。その中で数百匹の猿に囲まれた事や廃墟になった古代遺跡で寝泊まりした事。貨幣経済とは無縁の少数民族と遭遇した事など、色んな経験をしましたね。3人組に拳銃2丁を突きつけられ有り金全部取られた事もありました…その他多数ありますが、思い返すときりがないです。楽しかった!
柔和な表情からは全く想像がつかないほどの仰天エピソードを語ってくださった川西さん。そんな長い放浪生活を経て、日本での暮らしを決意した経緯について伺いました。
自分探しの終わりなき旅、そんな旅中心の生活をして10年が経ち回顧した時に、「旅先で偶然見かけ、いつかはと心に決めていたガラス細工」の事を思い出しました。この旅をあと10年続けるか、ガラス細工を始めるか。10年間の旅生活が人生を改めて考える丁度よい経験だったのかもしれません、と川西さん。そして結婚を機に、現在は奥様の地元である栃木県宇都宮市に工房を構えられています。
長い旅がなければ出会わなかったかもしれないガラス細工。これらのエピソードを聞いて、川西硝子の作品一つ一つに違った表情があるように感じられるのは私だけでしょうか。そんな川西硝子のアイテムを手に取ったお客様に感じてもらいたいことについてお聞きしました。
インクを使って書く、手で書く事の楽しさ、古き良きという新鮮さでしょうか。そして紙との相性やインクとの相性まで想像すると、より深くより楽しくなるかもしれません。またガラスペンを使っている時、使っていない時それぞれに見せる異なる表情も感じてくれたら嬉しいです、と川西さん。
最後に、川西さんの今後の展望やチャレンジしていきたいことを伺いました。
日本発祥であるガラスペンを海外に向けても伝えていきたいです。具体的にはアメリカやヨーロッパでのペンショーへの出展などですね。
そして少しだけ街から離れ自然の中に身を置いて、自然に寄り添う暮らしをしてみたいです。そうする事で今まで気付かなかった季節感や色を感じられるのではないでしょうか。そういうところを作品作りに反映できたらいいですね。より丁寧な日常生活を送る事で、より丁寧な作品作りができるのではないかと思っています。
とても謙虚で静かな語り口調ながらも、川西さんからは熱い想いが感じられました。美しいだけではない、実用的でどこか気品や強さのある作品が川西さんから生まれるのも納得です。私自身、より一層川西硝子の作品に魅了されてしまいました。
川西硝子のガラスペンをはじめとしたガラス細工のアイテムは、実際に商品を見ていただくと更に魅力が伝わると思います。詳しくはウェブサイトで取扱店舗やイベント情報をチェックしてみてくださいね。
記事は取材当時のものです。