歴史情緒が薫る街、金沢。金沢芸妓さんの1日に密着。そのお仕事とは
芸術と伝統の街、新幹線も開通しいま注目を集めている金沢。美術館や兼六園などは有名ですが、金沢には古くから芸妓さんがおもてなしをしてくれる茶屋街があることをご存知でしょうか?茶屋街は、ひがし茶屋街、にし茶屋街、主計町茶屋街の3箇所。そのそれぞれに芸妓さんが所属しています。
芸妓さんというと京都をイメージされる方も多いと思いますが、意外と全国に芸妓さんはいらっしゃるそうです。その中でも茶屋街があり、たくさんの芸妓さんがいるのが京都と金沢だと言えます。
京都と金沢の芸妓さんの大きな違いは、金沢の芸妓さんは住み込みをしないこと。京都と違って舞妓さんはいません。置屋に所属して、寝食をともにするのは京都ならではとのこと。対して、金沢の芸妓さんは自立して一人で暮しています。なので、着物やお稽古にかかる費用もすべて自分で賄っています。
芸妓さんは宴会をもてなす華やかな印象がありますが、実際のところどんなお仕事で、どんな1日を過ごしているのか、知らない方がほとんどだと思います。
今回はそんな芸妓さんの1日に密着し、そのお仕事についてお話を伺ってきました。
今回ご協力をいただいたのは、ひがし茶屋街でお仕事をされている「七葉(しちは)」さん。金沢芸妓としてデビューして2年目の期待の新人芸妓さんです。
お茶屋に所属する芸妓さんには70年近くお仕事を続けていらっしゃる方も。長く仕事を続けられるのも、金沢芸妓さんの特徴のひとつのようです。
七葉さんは20歳。取材で初めてお会いした時はとても落ち着いた物腰で、まさか20歳だとは思いませんでした。芸妓さんとして芸を磨く中で、普段から美しい所作が身についているのかもしれません。
趣味は音楽鑑賞と読書。それだけを聞くとごく普通の女の子です。けれど、お話しを伺ううちに、伝統を受け継ぐ芸妓さんとしての高い職業意識と、お仕事に対する情熱を垣間見ることができました。
芸妓さんの1日は、主にお稽古から始まります。午前中から午後にかけて、お稽古に通い、日々芸を磨いているのです。主には長唄、小唄、三味線、舞踊、お囃子などその種類は多岐に渡ります。
この日、七葉さんは舞踊と三味線のお稽古がありました。
普段はなかなかお邪魔することが難しいお稽古ですが、ご好意で三味線のお稽古にお邪魔させていただきました。
先生は元芸妓さん、お仕事を退いてからは三味線の先生として、一般の方から芸妓さんまで指導を行っているそうです。
真剣な表情でお稽古に励む七葉さん。先生もお墨付きの、なかなかの腕なのだそうです。それは努力家の七葉さんだからこそなのだと感じました。
お稽古の後は家事などをこなし、自宅で自主的に練習をします。
譜面を真剣に見つめる七葉さん。お囃子に使う鼓と大鼓(おおかわ)を見せていただきました。七葉さんはお囃子で大鼓を担当することもあるそうで、この楽器は他の楽器とリズムを合わせるのが難しく、乾いた高い音でお囃子を盛り立てます。
夕方からはお座敷の準備。お座敷は昼間に入ることもあるそうで、その他にも結婚式などで芸を披露することも。
手際よく白粉を乗せていきます。「昔の人はよく顔を白く塗ろうと考えましたよね」と時折笑顔を見せながら終始和やかな雰囲気でお化粧する姿を見せていただきました。お茶屋さんでお化粧をする芸妓さんもいるそうですが、七葉さんは自宅で準備を整えてから出勤します。
準備をしながら、好きな音楽を流して気持ちを整えるそうです。
あっという間に芸妓さんの姿に返信した七葉さん。一緒にお茶屋さんに向かいます。ひがし茶屋街は観光名所でもあるので、観光客の方に記念写真を求められることもあるそう。着物での所作も美しく、さすがは芸妓さんです。
ひがし茶屋街は歴史を感じさせる木造の町並みが続く、とても美しい場所です。昼間は観光客で賑わっていますが、夜は静かでまた別の顔を見せてくれます。
お茶屋に着くと、お座敷芸の舞踊とお座敷太鼓を見せていただきました。
扇子は常に何本も持ち歩いているそう。お着物やその場の雰囲気に応じて、見合ったものを選んでいるそうです。先輩芸妓さんからいただいた思い出のあるものや、愛着のあるものなど、どれも大切な商売道具のひとつです。
踊りの様子。さすがの立ち振る舞いの美しさ。
お座敷太鼓は金沢ならではの座敷芸です。大小、二つの太鼓を一人で操ります。
宴席はたくさんの人のお話が聞けて楽しいです、と七葉さんはお話ししてくれました。人前で踊りを披露できるのも嬉しいのだそう。
お茶屋は「一見さんお断り」という暗黙のルールがありますが、これは決して理不尽なことではなく、芸妓さんのお仕事やお互いの信頼関係を築くうえでのことだそう。宴席は大切なお客様をおもてなしにやってくる方も多いので、気軽な気持ちで訪れるのは失礼とも言えます。
そんなお客様のお話に合わせて宴席を盛り立てるのも芸妓さんの大切なお仕事。それでもお座敷芸が思い通りにできなかったときや、気配りが足りなかったときは悔しくて涙することもあるという七葉さん。
辛いこともあるけれど、ある人から言われた言葉で気付かされたことがあるそうです。それは「あなたの歳で好きなことを見つけられるのは幸せなこと」という言葉。いろいろな仕事を迷いながら突き進んできたその人には、七葉さんが眩しく見えたのかもしれません。
「だから私は幸せなんです」と七葉さんは語ります。これからも芸を磨いて立派な芸妓になりたいと、伝統を守っていきたいのだと、強い意志が伝わってきました。
芸妓さんはあくまで芸を磨いてお客様をおもてなしするお仕事。いろいろなイメージがあると思いますが、伝統を守ることに誇りを持つ尊いお仕事なのだと知りました。
お座敷に行けなくても、体験や金沢おどりなど、芸妓さんの芸を楽しむことができるイベントがたくさんあるので、皆さんも是非、芸妓さんの磨かれた芸を楽しみに金沢へ足を運んでみてはいかがでしょう。
七葉さん、ありがとうございました。
金沢芸妓ホームページ
http://kanazawageigi.jp/kind/index.html
金沢市公式観光サイト
http://www.kanazawa-kankoukyoukai.or.jp
記事は取材当時のものです。