伝統と品質を守る「亀の子たわし」が愛され続ける理由とは?手仕事のぬくもりとこだわり
東京都北区にある亀の子束子西尾商店の本店。大正12年に建てられた社屋は西洋建築としてもすばらしく、建物を目当てで足を運ばれる方もいるのだとか。そしていま改めてその良さが見直されている「亀の子たわし」は実はひとつひとつ手作業で作られています。誰もが知っているようで、知らない亀の子たわし。100年以上続く伝統と技術について伺ってきました。
亀の子束子西尾商店は、明治40年に創業しました。初代社長の西尾正左衛門が開発・販売し好評を得ていた靴拭きマットに不備が発生し返品の山になってしまうなか、妻の西尾やすがマットの部材である棕櫚(しゅろ)製の長い棒を折り曲げ障子の桟を洗っている姿を見て、その時代に使われていた藁や縄を束ねた洗浄具に代わるものをと閃き誕生したのが「亀の子たわし」なのです。
それからずっとたわしを作り続けて、今年で亀の子たわしはなんと112年を迎えます。100年以上にわたり、伝統と品質を守ってきた亀の子たわしですが、発売当初には苦労もあったそうです。
それは特許侵害者との闘いの連続でした。粗悪な類似品との差別化を図るために当時の石鹸の包装紙からヒントを得て、たわしを紙で包装し利用者に本物と認識できるように商標(亀のマーク)を表面に大きく強調しました。
少しだけ、たわし作りの様子を見学させていただきました。亀の子たわしはひとつひとつを手作りしています。これはたわしに使われている繊維の太さや、束ねるときの加減などが機械では調整できないため。
こうして束ねられたものを手作業で束子の形に整えていきます。
原料はヤシの実の繊維、その他に棕櫚、サイザル麻といった天然の素材を用いて作られています。
ひとつひとつ手作業で作られたものを、さらに検査にかけていきます。検査するのは20項目以上というから驚きです。一人前の職人になるには3年以上かかるそうです。
亀の子束子西尾商店はたわしの製造会社ですが、決してキッチンスポンジを否定しているわけではありません。亀の子束子西尾商店ではいま人気商品の「亀の子スポンジ」も製造していますし、あくまでスポンジとたわしの両方がキッチンにあれば汚れを落とすのに万能ですという提案をしています。
スポンジは面を洗う、たわしは繊維の頭の部分でザルの穴やまな板の包丁傷など凸凹の中に入り込んだ汚れを洗浄するのに適しています。こういった使い分けをすることで、清潔で快適な生活を送ることができるのです。
現代は核家族化が進んでいるので、昔であればおばあちゃんからお母さん、娘さんへと引き継がれてきたたわしの伝承も、なくなりつつあります。なので西尾商店ではたわしの良さを伝えていきたい、とお話ししてくださいました。ライフスタイルが変わっても、たわしの便利さは変わらないのですね。
特におすすめしたいのは、野菜を洗うこと。泥ごぼうは、包丁で皮を削ぎ落とさずにぜひたわしを使って泥を落として欲しいとのこと。そうすることで、皮と実の間の栄養や皮の香りも損なわずに済みます。
家族構成や使用頻度にもよりますが、キッチンで清潔に使えるのは3ヶ月を目処に。そのあとも捨てずにお風呂場や、石段、植木鉢、とどんどん活躍の場を広げて、長く便利に使うのがおすすめです。
亀の子たわしは今後も、たわしやスポンジのような水周りを中心にお客さまに喜んでいただける製品を作り続けていきたい、そう話してくださいました。
長い伝統を大切にし、高品質を維持したこだわりのものづくりを続ける亀の子束子西尾商店。いつの時代も私たちの生活にそっと寄り添ってくれる亀の子束子は、小さいながらも心強い存在です。たわしのあるちょっと豊かな生活を楽しんでみてはいかがでしょうか。
記事は取材当時のものです。