希少な伝統工芸に輝きを与える。儚げで神秘的な石川県金沢市「Jul(ユール)」の和紙から生まれるアクセサリー
石川県の伝統工芸「二俣和紙」を使った儚げで、神秘的なアクセサリーを作り出す「Jul(ユール)」手漉きの和紙で丁寧に仕上げられた作品は、身に付ける人が思わず笑顔になるような魅力があります。ひとつひとつ想いを込めて製作されたアクセサリーは、素材の美しさを存分に活かし、伝統工芸の新たな息吹となっています。
石川県金沢市で、伝統工芸の「二俣和紙」を使ったアクセサリー“murmur”(マーマー)を製作するブランド「Jul(ユール)」の北美貴さんにお話を伺いました。
Jul(ユール)のアクセサリーはシンプルなのに、ぱっと目をひく誘引力があります。それは儚げで神秘的な素材感とデザイン。一体どんな風に作られるアクセサリーなんだろう?と印象に残りました。
北さんは3年ほど前に心機一転、東京から石川県金沢市に移住しました。
「きっかけは、デザインの仕事を通し地域と関わって行く中で伝統、工芸、物作り。地場産業をとても身近にと言うよりも、当たり前のようにすぐ側にあり継承され生活に根付いている環境がとても新鮮で、デザイナーと言う立場で工芸に関わりたいと思っていた気持ちからです」
そんな中で、アクセサリーの誕生は偶然のようなものだったそうです。
「あるプロダクトの試作をしようと樹脂を用意していた時、何気無く切り飾っていた切り絵が、しなっとしてしまったのがふと目にとまり、固めたらどうなんだろうと。
すると変化して行く紙の様がとても楽しくて、手当たり次第ノートの切れ端とか方眼紙とか、そこら中の紙に施して行ったところ和紙に行き着きました。ほかの何よりも繊維が透き通り、光をはらんで輝く素材に魅了されて、これで何を作ろうか・・と考えて始めたのがきっかけです」
そんな経緯もあり、初めは商品にするつもりはなかったそうですが、出来上がった素材の美しさから自分自身「身につけたい!」と感じ、製作が始まりました。
そして石川県の伝統工芸、二俣和紙と出会います。
「伝統工芸と聞くと敷居が高くて、なかなか勇気が出せずにいたのですが、作り始めて間もない頃、二俣和紙を取り扱うショップの店長さんから使ってみたら?と言われたのがきっかけで職人さんと繋いでもらいました。
和紙は案外強いんですよ、とおっしゃっていたのが印象的で。試してみたところ、とてもしっくり来たんです」
この二俣和紙との出会いをきっかけに新たなデザインの可能性に辿りつきます。
「素材そのものが繊細で儚げでとても美しいのですが、均一に薄く漉かれ少し光沢があり、折り目が付きやすく、それまでは切り絵のようなアクセサリーを作っていたのですが、1枚1枚丁寧に漉かれた和紙を切り刻む罪悪感みたいなものがほのかにあって。
折りをメインに変え、素材の美しさをアクセサリーに活かし、端材など捨てるところが少ないようにと変えました」
Jul(ユール)のコンセプトは大きく捉えると「生」だそう。
「一番大切なことは"生きる"と言うことだと思っていて、特別なことでは無くても、日々の小さな出来事や感動、驚き、印象に残った一瞬を表現しています。
例えば、雲の多い日、空の切れ間にやっと見た青空とか、夕方と夜との境の空の色とか、船が進む波の跡、砂浜に上がった無数の桜貝、祖母が送ってくれた桃の香りがたまらなくて桃を想い染めたり、冬の寒さや強風に耐え乱れながら咲く庭の山茶花の強さとか、小さなことが結構楽しい。そんな積み重ねの毎日に発見がある。そんな気持ちを表現しています」
北さんの感受性の豊かさが作品に活かされているのが伝わってきますね。
「Jul(ユール)としてデザインする時にいつも思うのが、自分自身がワクワクするかどうか、ということ。とてもシンプルですが、受け取り手が商品を手にとる時にぱっと目が輝き笑顔になってくれる感覚を大切にしたいと思っています。
そしてもちろんですが、手作りならではの丁寧さ。1つ1つに想いを入れ製作するように心がけています」
また、和紙を使ったアクセサリーの特徴と魅力について教えていただきました。
「和紙という、繊細で儚いという印象と魅力に、更なる価値観を付加し、素材の可能性を広げたいという挑戦と、樹脂を含浸させることで現れる、繊維が透き通るようなゆるい透明感を活かすような形状にこだわっています。
透明感があるため重なり合う部分の陰影も魅力の一つです。和紙がプラスティックのようになってゆくなか、手漉き和紙独特のテクスチャーを活かすようにしています。樹脂で加工する事で耐水性を持たせたり、強度を増すといった利便さのほか、紙単体では留められないような不安定な一瞬の形状を、加工することで切り取り美しい形を留めるように製作しています。
折ったものを開くその手加減で形状が変わるのも魅力。また、それは同じものを作る上で微調整がとても難しいところでもあります」
幾何学的で抽象的なデザインが特徴のJul(ユール)のアクセサリーですが、それは身に付ける人に自由に発想をしてもらい、それがそれぞれの愛着になれば、という北さんの想いがこもっています。
「儚げで、でもしっかりとした信念を持ち力強い。どんな時もさりげなくそっと背中を押してくれる。持つ人にとってそんなことを伝えられるアクセサリーになってくれたらと思っています。
それから、ご購入されたお客様からの声に"一目惚れ"とおっしゃって頂くことがあるのですが、私もこの素材の魅力に一目惚れしたので、こちらの想いが伝わったような気持ちになりとても嬉しく、製作の励みになっています」
最後に、伝統工芸の二俣和紙と今後の展望について伺いました。
「金沢市の二俣町で漉かれる和紙を『二俣和紙』と言います。1300年以上もの歴史を持ち、二俣が献上紙漉き場として、加賀藩の庇護を受けることになり、美術工芸用の紙として使われるようになったそうです」
「現在わずか2軒の職人さんにより継承されており、希少伝統工芸とも呼ばれています。和紙を漉くための最適な温度環境は、その土地の四季に合わせた自然の中で作業されていきます。冬はとても寒く雪深いその地で手で漉く和紙はとても繊細で美しく、儚くて強い印象があります。2軒となった伝統工芸がこれからも継承されて行って欲しいと思う願いもあります。
工芸を継承していくには小さな頃からの経験や体験がいかに身近であるかが大切なんだろうな。と感じていて、小さな子供たちや若い世代への工芸への興味を自然な生活環境のなかで知らずに手にしているような、そんな現代のライフスタイルに馴染んだ身近なものを作れたらと、思っています」
伝統工芸を新たな形で世に送り出しているJul(ユール)のアクセサリーが、これからどんな素敵な出会いと驚きを生んでくれるのか楽しみですね。北さん、ありがとうございました。
こちらは、2017年5月25日公開の記事を再編集して公開しました。記事は取材当時のものです。