日本の伝統文化を伝えたい。世界で初めての「歌舞伎フェイスパック」の裏側

一心堂本舗 歌舞伎フェイスパック

 

国内のSNSだけではなく、海外でも話題となった「歌舞伎フェイスパック」みなさんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?このヒットアイテムが世に生み出された経緯と、ヒットの裏側を販売元の一心堂本舗さんに伺ってきました。

 

一心堂本舗は2011年に設立、当初はご年配の方が喜ばれるような健康的な食品を調剤薬局に卸す事業を展開していたそうです。企業としての姿勢は江戸時代に生まれた「養生」の文化を現代に伝えること。

 

そんな一心堂本舗に転機が訪れたのは2013年の歌舞伎座の大リニューアル。このリニューアル前に、歌舞伎座へ商品の提案をしに行ったところ、先方にも好評だったのでお店を出店してみないかというお話しになったそうです。

 

歌舞伎座の地下にはチケットがない一般の方も入れるスペースがあり、そこに屋台の形で出店。せっかく歌舞伎座にお店を構えたのだから、歌舞伎にちなんだ商品を作って売り出したところ、それがとても好評だったそう。そこで、今までは調剤薬局に卸していた商品から、さらにお土産物とした商品を開発、販売することになりました。

 

その中に歌舞伎フェイスパックがあったわけですが、この商品は初めて歌舞伎を目にした代表の戸村さんがその素晴らしさに魅了されて、伝統である歌舞伎文化をもっと若い方や海外の方にも広めたいという思いから開発されたそうです。

 

フェイスパックは十代目松本幸四郎さんに監修していただき、パッケージを開くと中には歌舞伎の説明が日本語と英語でわかりやすく記載されていて、海外の方にも喜んでいただける仕様になっています。私自身も拝見させていただきましたが、隈取りの由来や歌舞伎の歴史などが書かれていて、しっかりとした裏付けのあるとても興味深い内容でした。

 

一心堂本舗 歌舞伎フェイスパック

 

ただ目を引くデザインで面白い、という商品ではなく、しっかりと歌舞伎というものがどういう伝統芸能かということを伝えるために間違いのない情報と、またお土産としても薄くて持ち運びしやすいことから、海外の方へも歌舞伎の文化を伝える一端を担った商品となりました。

 

一心堂本舗 歌舞伎フェイスパック

一心堂本舗 歌舞伎フェイスパック

 

実は柄の付いているフェイスパックというのは、この商品が世界初ということで、とても反響がありました。一般の方のSNSの投稿から始まり、芸能人の方やスポーツ選手など、様々な人たちがこのフェイスパックを付けた写真が拡散され、話題となりました。

 

そして2014年のグッドデザイン賞、アジア地区最大の広告祭「アドフェスト2014」のデザイン部門シルバー獲得を果たします。その後、様々な柄や日本のサブカルチャーとのコラボレーションなどで、バリエーションを増やしていき、現在ではなんと累計500万枚の売り上げとなっているそうです。

 

さらには伊勢志摩サミットの公式お土産に選ばれるなど、大々的に世に知れ渡ることとなりました。

 

もちろん、今まで化粧品のノウハウがなかったので、開発には様々な苦労がありました。まずは社歴が短く、潤沢な資金や知名度もなかったこと。社員数も少ない中で、化粧品開発の実績も製造会社とのつながりもありませんでした。

 

初めて製造を依頼した会社には、すべて断られてしまい、商品化にこぎつけるには程遠い状況でした。そんな状況を打開したのが、専門業者による分業制にすること。なんと40社以上と交渉し、それぞれの専門業社を絞り込んだそうです。

 

商品の開発にあたっては妥協せずに高品質なものを生み出すことに尽力しました。

これからも日本のお土産代表として長く愛される商品になるよう、商品開発を続けていくそうです。

 

次にお話を伺ったのは、福福リップというお守り袋のような形の袋にリップが入っている、という商品。私も一目見てかわいい!と興味を惹かれました。

 

一心堂本舗 福福リップ

 

発売は2017年の11月。フェイスパックの次の商品として、1年半の時間をかけて商品開発を行ったそうです。歌舞伎フェイスパックが日本の文化を世界の方に伝えるというコンセプトで作られた商品だったので、ものづくりをしている企業として、日本の良さを発信して、それを手に取った人に喜んでもらえるということは、とても健康的で、喜ばしいことでした。

 

そこで、さらに日本文化を知ってもらうことに繋がる商品を、と考えていたところ、地本独自の文化であるお守り袋に着目しました。このかわいらしい文化をもっと気軽に伝えられたら、そして手軽に持ち歩ける商品として販売に至りました。

 

一心堂本舗 福福リップ

 

 

この福福リップは袋の織物にもこだわっていて、富士山の麓で作られている富士山織りという織物を使用しています。

 

富士山織り

 

通常ならば、五月人形などの着物に使われている織物で、なかなか渋い色柄が多い中、商品化するにあたっては、もう少しカジュアルに、若い年代の方にも喜ばれるような柄をデザインしたことで、いまだかつてそのような柄を織ったことのない職人さんたちとは大変な試行錯誤を繰り返して、ひとつひとつ手作業で縫製するなどのこだわりが詰まっています。

 

デザインは幅広く、男性や年配の方にも気に入ってもらえるようなバリエーションで展開しています。

 

今後も日本文化を発信してゆきたいと、展望を語ってくださいました。

 

今まで健康的な食品を主に世に送り出してきた一心堂本舗。フェイスパックやリップなどの商品は一見、会社の理念と食い違っているように見えるかもしれません。けれど、ものづくりの姿勢はあくまで「養生」だとお話ししてくださいました。

 

それは、養生とは心の健康という意味合いもあって、広義ではあれど、喜びを感じたり、楽しみを感じたりするということは心の栄養になっていくと考えているのです。

 

作り手として、手に取った人や業界の方に喜んでもらえるのはとてもうれしいこと。そういう幸せの連鎖をつなげていきたい、身近なところから幸せにしていきたい、そう最後に語ってくださいました。

 

日本の伝統を発信してゆくことは、これからの未来の種まきにも繋がるのだな、と感じました。2020年の東京オリンピックをひかえるなか、ますます一心堂本舗の生み出す喜びと幸せに期待したいですね。

 

記事は掲載当時のものです。