毎日がちょっといい日に。瀬戸内の伝統と手しごとを楽しむ「HIYORI」の和三盆

 

かしこまった日ではなく、“ちょっといい日”にお茶やコーヒーといっしょにいただく和三盆。「HIYORI」では、松や梅などの伝統柄も大切にしながら、かもめやばらの花、ギターやレコードなど、新しい和三盆のデザインを次々に描き出しています。瀬戸内の伝統から未来へ続く物語をたずねてみませんか?

 

 

「和三盆糖」は、日本の中でも香川や徳島といった讃岐地方の一部でのみ栽培されている「ほそきび」と呼ばれているサトウキビを原料とします。名前のとおり、他の地域よりも細くて背の低いサトウキビ。このサトウキビでないと和三盆の上品な風味が出ないため、200年以上前から大切に受け継がれてきました。

この和三盆糖100%で作られたお干菓子のことを「和三盆」と呼びます。お干菓子や練り切りなどの「菓子木型」を彫ることのできる職人さんは、今では全国で数人しか残っていないといいます。

HIYORIで和三盆のデザインを手がけている泉田志穂さんは、和三盆糖の産地・香川県で育ちました。

「子どもの頃、和三盆は“特別な日のお菓子”だったので、あまり食べた記憶がありませんでした。その魅力を再発見したのは大人になってからです。伝統木型で和三盆を作るワークショップに参加して、作りたての和三盆を食べたとき。ふわふわとろけるような食感と控えめな甘みに感動して、和三盆が大好きになりました」

和三盆は、昔から香川を代表する特産品でした。そんな和三盆のデザインを依頼されるようなデザイナーになることは、いつしか泉田さんの憧れになっていました。しかし、それから地元を離れていたこともあってなかなか依頼は来ず、菓子木型職人を目指していた友人とともに「自分たちの手でイチから和三盆を作ろう」と、2015年に和三盆ブランドHIYORIを立ち上げます。

「もともと伝統工芸が好きでした」と話す泉田さん。学校では工芸工業デザインを学び、デザイナーとして独立。結婚、出産と両立しながらもものづくりに携われる方法はないかと、試行錯誤する日々を送っていたそうです。

ひとりでは成し得なかった伝統工芸を受け継ぐ仕事は、和三盆を中心にさまざまな作り手との出会いによって実現しました。

デザインを手がける泉田さんをはじめ、デザインを木型に起こす菓子木型職人さん、サトウキビを作っている農家さんや製糖所さん、職人さんの木型に和三盆糖を詰め、工房でひとつひとつ手作りしているお干菓子職人さん。HIYORIの和三盆は全て、人の技術と手しごとによって形作られているのです。

菓子木型を彫る職人さんが減りつつある背景から、樹脂製の型で作られるようになった和三盆や落雁も多いといいます。そんな中で、HIYORIが手彫りの木型と瀬戸内の和三盆糖にこだわり続けているのは、「手しごとが好き」という思いがあるからこそ。

「木型には、彫った人の個性がにじみ出ています。同じように、ひとつひとつ手作業で作られる和三盆には、作り手の個性も現れています。ひとつも同じものはない、あたたかみのある個性を感じてもらえたら嬉しいです」

「コーヒーブルース」は、そんなHIYORIならではの和三盆のひとつ。淹れたてのコーヒーをいただくことが好きな泉田さんが考案した、コーヒー好きさんへの贈り物にもぴったりな一品です。

また、HIYORIを共同運営し、和三盆の魅力を伝える「せとうちラボラトリー」の石野くんの「紅茶に合う和三盆が食べたい」というアイデアから、「フルーツさんぼん」も生まれました。瀬戸内レモンなどの柑橘が香る和三盆には、紅茶やハーブティーがよく合います。

高級品なイメージがあった和三盆が、なんだか身近で楽しいものになってきますね。形も味も自由自在で、自分でも作ってみたくなります。

そんな方のために、HIYORIではオリジナルオーダーも行っています。結婚式の引き出物、記念品、ノベルティグッズなど、「こんな和三盆を作りたい」というアイデアをデザインに起こし、木型に彫り起こしてもらえば、世界でここにしかない和三盆の完成です。

伝統を大切にしながら、新しい和三盆の面白さも伝えているHIYORI。料理に使えば素材の味を引き出してくれる和三盆糖のように、その可能性は無限に広がっていそうです。

こちらは2019年1月21日公開の記事を再編集して公開しました。記事は取材当時のものです。