伝統の技術を絶やさないということ。新しい挑戦を続ける 墨田「廣田硝子」のものづくり

廣田硝子

 

東京で一番古い歴史を持つ硝子メーカーである廣田硝子。今回は創業から今まで続けてきたそのものづくりの姿勢や、グッドデザイン賞を受賞したデザイン性の高い硝子商品、また定番の江戸切子について実際に足を運んでお話をお伺いしてきました。スカイツリーを望む、錦糸町にショップと工房があり、ものづくりの街の面影が今でも残っています。

 

 

廣田硝子

 

まずは「すみだ江戸切子館」で江戸切子のグラスと製造工程を見学させていただきます。江戸切子の特徴は色ガラスと紋様との繊細な組み合わせ。それを生み出すにはたくさんの工程がありました。まずは江戸切子のガラスは、色ガラスと透明のガラスの2層で出来上がっています。色ガラスが熱いうちに、内側に透明なガラスを吹きこむことで出来上がる2層のガラスが江戸切子の特徴です。そのガラスを削り出した時に透明な部分と色付きの部分に分かれるといった具合です。

 

廣田硝子

 

また削り方の違いで、色の出方が異なります。3回から4回は刃を変えて作っているそうで、最後に特殊な磨粉を回転させながら研磨することで、最終的にあの透明度を実現しています。

 

廣田硝子

 

それぞれ伝統的なデザインがベースにありますが、こちらでは現代風の意匠をあしらった現代風のデザインのカットも採用しています。お店はとてもきらきらしていて、落ち着いていながらも華やかな雰囲気でした。

 

一通り江戸切子についてお話を伺ったあと、廣田硝子の現在のラインナップである食器などを実際に拝見しながら、その歴史をものづくりのこだわりについて社長の廣田さんにお話していただきました。

 

廣田硝子の特徴はなんといっても、ハンドメイドにこだわっていること。世界的にガラスの市場が縮小し、どのメーカーもオートメーション化が進んでいるのは、ガラスの製作現場の過酷な環境も一端であると廣田さんは語ります。ガラス製造の場合は陶器などと違って、常に火を絶やさずにいることが求められます。そのうえ「透明」であるというガラスの特徴ゆえ完成度を求められることも難しい。ハンドメイドなのでガラスは生産計画を立てるのが難しく、いきなり減らしたり増やしたりすることができないのです。そんななかで作り続けないといけないということが、現代の消費スタイルのなかではやりづらい。

 

廣田硝子

 

そういった厳しい現状のなかで、新しい意匠のガラス製品を生み出し続け、高い評価を得ている廣田硝子。その理由は時代の流れというのもありますが、先代の時代から流行に先駆けた商品も作ってきました。そうしたなかでも、日本のガラス食器の歴史に沿った硝子本来の意匠にもこだわっていろいろなものを作り続けてきたからこそ、いまでも作り続けていられる商品もたくさんあるのだそうです。

 

例えば80年代当時はガラス食器工場もたくさんあって、比較的作れるそして売れる良き時代でした。金型工場や石膏・木型模型が作ることが出来、比較的作りたいと思えるものが作れる環境にありました。全国各地に存在するどの素材の伝統技術でもそうですが、生産をやめてしまったら途絶えてしまう。一度無くなってしまったら、もう取り戻すことができないのです。

 

いかにそのガラス食器生産技術や伝統を残していきながら、ガラス食器に携わる一会社として存続していけるかというのが、いまの廣田さんの課題。その時代時代に課せられた役割があるとしたら、昔から続いてきたものを途絶えさせないというのが僕の役目なのかもしれません、と語っていただきました。

 

廣田硝子

 

ただ、そういった仕事もただ一人一つの会社だけで頑張っているのでは実現することができず、仕事を通じて共感して戴いている人たちがいらっしゃるからこそ、いいものを作り続けていくことができるのです。

 

グッドデザイン賞に選ばれたいまの商品も、一見新しい技術で実現されたように思えますが、一度途絶えてしまって70年代80年代に復刻された、いまは難しい日本独自の製法で作られたものです。作り続けてきたからこそ、いまの作品がある。消費者に受け入れられる商品にするには、食器だけではなく、いまのライフスタイルに合わせて少しずつ変化をもたせながら、いろいろな商品を作っています。

 

昔から培われてきた技術、それが廣田硝子の財産でもあるのですね。

 

廣田硝子

 

いまの需要は圧倒的にギフト需要が大きいそうです。それでも、食器にはお金をかけなくても…という考え方が多いなか、食器を変えるだけで料理が美味しく盛り付けることができたり、見た目の楽しみ方も変わってくる。ガラスにはガラスの良さがあり、もっとガラスのことをみなさんに知ってもらいたいです、と廣田さんは言います。ガラスのある生活は、ほんの少し生活が豊かになる、より日々の生活の幅を広げるアイテムとして、日本のガラスの良さが伝われば嬉しい、とのこと。

 

廣田硝子

 

今後の展望は、当然この技術を残していかないという想いは人一倍あるけれど、その思いだけでは現実生き残っていけない。それは経営者として当然の考えでもあります。商品として買ってくれる人がいて、知ってくれる人がいること。その流れを作っていかないと、技術も残していけないので、いかにこの技術を残してゆく流れを作っていくということが一番。培ってきた技術を使って、食器以外のものも作っていきたいと、廣田さんは語ります。実際に文房具なども作っているように、照明なども引き続き挑戦していけたら。

 

今後の廣田硝子の活躍が気になりますね。一消費者として、この技術を応援していけたら、そんな気持ちになりました。

 

記事は掲載当時のものです。