「畠山七宝製作所」が生みだす、粋でモダンな東京七宝アクセサリー

畠山七宝製作所 工房

 

世界的に見ても歴史ある七宝焼き文化。ここ東京でも伝統をもつ七宝焼きが作られていることをご存知ですか?今回は南千住に工房を構え、“東京七宝”を用いたアクセサリーや小物を製作される「畠山七宝製作所」に伺い、代表取締役の畠山弘さんに貴重なお話をお聞きしました。

 

畠山七宝製作所の設立は昭和26年。当初は学校用のバッジや企業のエンブレムなど、さまざまな種類の記章をおもに作られていたそうです。東京オリンピックの時にも五輪ピンズを作られていたのだとか。

 

畠山七宝製作所 アクセサリー

 

約20年前から現在に至り、いま作られているのはジュエリーやアクセサリーがほとんど。きっかけは畠山さんご自身が自社製品を作ってみたいと思ったからだそうです。そうしてデザインから製作まで、全て自社で行うようになりました。

 

とても鮮やかなカラーと細かなデザインに驚かされる畠山七宝製作所のアイテムですが、まずはこちらで扱われる“東京七宝”の特徴についてお聞きしました。

 

まず七宝とは、金、銀、銅などの金属器胎の表面にガラス質の釉薬を溶着したもののことを指します。約800度にもなる高温の釜で焼きを入れ、溶けた釉薬により彩り豊かな色が施されます。

 

七宝焼きを作る上で釉薬を入れる溝が必要になるのですが、大概の七宝は0.8mmの溝が主流です。一方東京七宝では、0.35mmというとても浅い溝で作られます。また、私たちの工房ではジュエリーやアクセサリーといった小さなものを作るので、仕上げにメッキ加工を施すのも特徴です。元は銅色をしているんですが、メッキをかけるとつやつやと美しくなるんですよ、と畠山さん。

 

畠山七宝製作所 工房

 

実際に溝を見せていただきましたが、想像以上に浅いのです。まさに職人技ですね。東京七宝の作品を仕上げるためには、多くの工程を重ねます。

 

決まったデザインからまずその型の地金を作るまでに約2週間。そこに色を入れていくことに約1週間。そして最後にメッキで仕上げをするにも約1週間と、全ての工程を合わせると最低でも約1ヶ月を要します。もちろん、色数が増えれば増えるほど工程も増すので、その分時間もかかります。

 

東京七宝は溝の浅さもあり線がかなり細いので、さまざまな色を一度に入れて焼き上げると、色が混ざってぼやけてしまいます。そのため、一色入れたらその度に焼き、酸洗いし、また次の色を入れる…という工程を繰り返さなければなりません。この段取りがあってこそ東京七宝の鮮やかなカラーがあらわれるのですね。

 

畠山七宝製作所 工房

 

数ある工程の中でも、特に大変だとお話しされていたのが研磨です。0.35mmの溝は少しでも研ぎすぎてしまうとすぐになくなってしまいます。とても細かな作業なので、熟練の技が必要になるのだそう。全工程をお一人でできるのはなんと畠山さんのみ。ほかの職人さんは技術を継承中なのだそうです。

 

これらを知った上で作品を拝見すると、より一層の感動を覚えます。続いて、数ある作品の中で、畠山さんおすすめのアイテムを教えていただきました。

 

畠山七宝製作所 アクセサリー

 

まずはこちらのリング。12面に施されたそれぞれの釉薬が美しい、“エターナルリング”という名の作品です。グラデーションカラーは循環をあらわし、永遠につながるという意味でこの名をつけたのだそう。とてもロマンチックですね。面が12もあるので、仕上げに根気と時間がかかります。

 

実際に着用させていただきましたが、カラフルながらもどこか和を感じられ、日本人の肌に映えとても上品。職人の手しごとを想いながら、その名の通り一生をかけて身につけられるリングだと感じました。

 

畠山七宝製作所 アクセサリー

 

次に、まるで絵画のような優美な女性の横顔デザインが特徴のこちらは、ペンダント&ブローチ。下のふたつは製作過程のもの。この作品だけでも10色は使われており、工程が多い作品のひとつです。

 

デザインもとても細かいので、製作過程のことを思うとしみじみとしてしまいます。存在感のある大きさがすてきで、普段のファッションに華を添えてくれそうなアイテムです。

 

畠山七宝製作所 アクセサリー

 

そしてこちらはとてもユニークな“妖怪シリーズ”。隅田川周辺に生息すると言われる全10種の妖怪たちがモチーフになっており、ピンズ、根付、帯留の3パターンから選ぶことができます。畠山さんのご友人が妖怪をテーマに作品をつくる作家さんとお知り合いで、そのつながりで東京七宝でも作ってみたことがきっかけなのだそうです。

 

なんとこちらのシリーズは海を超え、フランスのパリにあるケ・ブランリ美術館内ミュージアムショップでも販売中です。

 

さまざまなデザインの東京七宝アイテムを作られたり、新しいことにチャレンジされる姿が印象的な畠山七宝製作所。実際に商品を手に取ったお客様に感じてもらいたいことについて伺ってみました。

 

畠山七宝製作所 アクセサリー

 

私たちの商品は、一色一色がとてもクリアなものが多く、ぜひそこを見ていただきたいです。と言うのも、私たちはぼかしを使った表現をすることがほとんどないのです。

 

ぼかしのあるデザインだと、例えば不純物が入ってしまっても目立ちにくいですよね。一方、クリアであればクリアであるほど目立ってしまいます。それぞれの色、特に白色の美しさには自信がありますから、ぜひお手に取って近くで眺めてみてほしいですね、と畠山さん。

 

実際に商品を近くで見てみましたが、新雪のようなクリアホワイトには特に驚かされました。工房でお持ちの釉薬は200種類以上!色へのこだわりが見てとれます。最後に、畠山さんに今後の展望を伺ってみました。

 

畠山七宝製作所 工房

 

この伝統を守っていくため、大切な職人を育成することが必要です。そのためにもっと販路を拡大し、商品の販売につなげていかなければいけません。しかし七宝という名前を知らない方もまだたくさんいらっしゃると思います。まずはいろんな方に七宝焼きのことを知ってもらい、純粋にその良さや美しさを感じていただければと思っています。

 

終始和やかに語ってくださった畠山さん。取材の後には、実際に色を着ける工程や焼き上げる様子を見せていただきながら、ていねいに説明をしてくださいました。七宝のことをもっと知ってほしいという畠山さんの気持ちが伝わり、編集部はすっかり東京七宝の魅力にはまってしまいました。

 

畠山七宝製作所の商品は、お手に取って近くで見ていただくことで魅力がより伝わるかと思います。来年1月には新宿タカシマヤでのイベント出店も予定されているそうですので要注目。また、オーダーメイドでの製作も可能ですので、世界にひとつの自分だけのアイテムを作りたいという方にもおすすめです。

 

記事は取材当時のものです。