和紙のある豊かな暮らし 日本橋「榛原(はいばら)」が伝える伝統と現代のぬくもり
日本橋に店舗を構える和紙舗「榛原」は文化3年(1806年)に創業、200年続くいまでもその伝統と格式を守っています。それでいて、現代でも支持される理由は、歴史とともに培ってきたこころのこもった商品を、時代に合わせて現代の意匠に手直しし、常に紙のある豊かな生活を提供し続けてきたからです。今回は日本橋の店舗に赴いて、実際の商品を目の前にしながらお話を伺ってきました。
創業者である初代中村佐助は、若い頃奉公していた書物問屋で木版摺りの技術を学び、年期が明けた後は質の良い紙に木版摺りを施した便箋やうちわを販売する和紙小間物販売店を日本橋に開業しました。
当時より木版摺りのうちわ、便箋、金封などは榛原の代表的な商品でした。江戸期~昭和期にかけて、各時代の一流の絵師が原画を手掛けた木版摺りうちわが、初夏に店頭に並ぶことが風物詩のひとつとして数えられるほど、榛原は流行の先駆けでもありました。
榛原の代表的な商品の便箋と封筒。紙を少しずつずらしながら、縁に色をのせています。
便箋やうちわは生活のなかで日用品として消費されてしまいますが、その時代の有名な絵師の作品を商品として取り入れることで、人々の生活と芸術の世界を結ぶ役割を榛原は担ってきました。これらの積み重ねが現代に続く「榛原デザイン」の礎となっているのですね。
そして現代の意匠にアレンジされた商品もいま人気です。昔の手紙に使われていた「巻紙」のアイデアを元に作られたのが、人気商品の「蛇腹便箋」です。折り目毎にミシン目がついているので、好きな長さに切って使うことができます。便箋のデザインは、江戸期に取り扱っていた巻紙の紋様をもとにしています。
主には明治大正期のものが多く、和洋折衷のちょっと現代風な意匠に工夫されています。図案にはそれぞれ、見た目のうつくしさだけではなく、見た人がちょっぴり幸せになれるような意味合いが込められているのだとか。
たとえば、梅の花は寒い冬を経て真っ先に咲かせるため、希望の象徴。菊の花が咲くと実りの秋がやってくるので、良いことの先触れ。などなど。
また金封も榛原の定番商品として人気があります。花結びや結び切り等の水引は店頭でスタッフの方がひとつひとつ丁寧に引いています。木版摺りの金封は、7から8枚の木版を使って摺られているそうです。榛原の赤は「言祝ぎの色」とも言われ、おめでたいときに使ってくださるお客様も多いのだとか。
いまでも昔からの商品と、現代の意匠を汲んだ商品を扱っていますが、みな自分だけで使うものではなく、誰かに大切な気持ちを伝えるときに使うものなので、気持ちのこもった人との関係を橋渡しする商品なのです。
むかしから足を運んでくださるのは、榛原の商品を永く愛用されている60代70代の方ですが、オフィス街なので秘書課の方や、休日には親子連れから若い方まで幅広く来店されるそうです。
お客さまには、榛原の商品を通して紙の持つ温かみに触れ、大切な人生のシーンに、手仕事の和紙のぬくもりを取り入れていただきたいとお話ししてくださいました。
昔から守り伝えられてきた模様にはそれぞれの意味があって、意匠としてのうつくしさとそのなかにある意味合いを知ることで、すこし豊かな気持ちになることができますね。
会社のあり方として紙のある豊かな生活を提供する、それぞれの時代に合った形で紙の使い方を提供していきたい、と最後に語ってくださいました。
今回店舗に伺ったことで、和紙の世界の奥深さに触れることができました。いま人気の朱印帳や、かわいらしいちいさい蛇腹便箋など、難しく考えず気軽に使うことができる商品も多く、ちょっとした気持ちを伝えるのに、スマホではなくあえて紙でというのも気持ちがより伝わる気がしますよね。編集部もこの機会に便箋を購入しましたが、ぜひ気軽に足を運んでいただきたいです。
こちらは2018年7月7日公開の記事を再編集して公開しました。記事は取材当時のものです。