心が整う手仕事の時間。「Found & Made」に学ぶスウェーデンのバンド織り
リノベーションされた一軒家の2階に上がると、織り物や編み物などの手仕事に使う糸や道具がずらり。窓辺には「訪れる人が自分の作業を持ち込めるように」と、飲み物付きで1時間500円のワークスペースも備えています。手仕事の時間はものを作るためだけでなく、自分の心と向き合うための時間でもあります。初心者でも、不器用でも、手仕事を始めてみたくなる、作り手のためのお店「Found & Made」を訪れてみませんか。
ここで最初に出会えるのは、フィンランドやスウェーデンなどの民族衣装でも使われている伝統工芸「バンド織り」。バンド織りの主な技法のひとつは「平織り」という最もベーシックな織り方で、日本の「真田紐」も同じ手法で作られています。タテ糸とヨコ糸が織りなすシンプルな織り物だからこそ、もくもくと手を動かすのに向いているのかもしれません。糸の素材感や彩りがそのままデザインに現れるのも、素朴で可愛らしいですね。
「Found & Made」では、子どもから大人までが挑戦しやすいバンド織りをはじめ、さまざまな織り物・編み物に挑戦できる教室やワークショップで、気軽に手仕事を始められるきっかけを作っています。
「私がバンド織りに出会ったのは、スウェーデンの手工芸学校のサマースクールでした。はじめは“裂き織り”という技法を学びに行ったのですが、気がつくとバンド織りにハマっていたんです。夏のスウェーデンは日の沈まない白夜で、時間を忘れて、いろんな国の人たちと話をしながら、手仕事の世界に没頭していきました」と、店主の佐野麻子さん。
佐野さんは学生時代にテキスタイルを学び、卒業後に就職したものの、「その人やその空間に本当に合うものを、オーダーメイドで作りたい」「大量生産されるものではない、ずっと残る手仕事を続けていきたい」という思いを持っていました。そして、スウェーデンでの体験が転機となり、2017年春にお店をオープン。「バンド織りをたくさんの人に知ってもらいたい」という気持ちがどんどん強まっているそう。
「Found & Made」では、アマチュアからプロまで使いやすい本格的な道具を取り揃えています。イギリスの洋裁道具ブランド『Merchant & Mills』の洋裁バサミや、日本ではここでしか手に入らないスウェーデンの糸メーカー『GarnhusetIKinna』の糸、日本の作り手『saredo(されど)』の糸なども。絶妙な色味を持った糸玉を眺めているだけで、「これを使って手を動かしてみたい」という創作意欲が湧いてくるようです。一緒に輸入雑貨や古道具も並んでおり、より手仕事を自分のライフスタイルのそばに感じさせてくれます。
「いろんな人に手仕事に触れてもらいたい」という思いを持つ佐野さんは、お店では販売や自身の創作よりも、教室やワークショップをメインで行っています。初心者の人におすすめの教室は、1日で織り終わる「Weaving Share」。もう少し本格的に学びたい人には、月に1日、全3回をかけて手織りを学ぶ「Short Corse」。自宅で、自分のペースで没頭できるのも織り物や編み物のよさですが、誰かとおしゃべりしながら手を動かしたい人、自宅にはなかなか置けない足踏み織り機を使ってみたい方は、教室に参加してみるのもおすすめです。
佐野さんは、季節に合わせた様々な手織りのワークショップも用意しています。木の幹に釘を打ち付けたものや、枝を織り機に見立てるなど、楽しい工夫やアイデアを加えられるのも織り物の魅力。バンド織をはじめとするベーシックな織り物は、糸の種類によっても全く違った風合いを見せるのが面白いですね。
しんと静かな冬ごもりや、ぽっかり時間があいたとき、逆にささくれた心を落ち着けたいときこそ、手元に集中して指先を動かせば、まるでタテ糸とヨコ糸のように気持ちが整理されていきます。
さあ、スマホの電源を落として、手仕事をはじめてみませんか?
記事は取材当時のものです。