自然とともに生きることとは。石川県小松市日用町「苔の里」から見る共生の姿
見る者の心を落ち着かせる緑の絨毯、苔。日本文化を象徴する私たちに馴染み深い植物です。その苔を鑑賞することのできる場所、「苔の里」は石川県小松市日用町「叡智の杜(Forest of Wisdom)」の中にある隠れた名所。今回は一般社団法人叡智の杜代表理事・有川宗樹さんにお話を伺いました。
小松空港から車を走らせること25分。石川県小松市内にある里山集落、日用町(ひようまち)をご存知ですか?のどかな小川や田園が広がる中、古民家が点在する美しい景観を楽しむことができ、美しい日本のむら景観百選にも選ばれている場所です。
自然とともに生きる文化が根付く場所ですが、それを維持し継承していくことは時代とともに困難になりつつあります。それは日用町に限らず、日本や世界でも同じように生じている課題のひとつ。
そこで日用町の自然/文化/景観の維持再生を、住民組織である“日用苔の里整備推進協議会”と“一般社団法人叡智の杜”が主体となり、国内外の人々が集い叡智を持ち寄ることで実現していく「叡智の杜プロジェクト」がスタートしました。
そうして始まった「叡智の杜(Forest of Wisdom)」は、多様な苔(蘚苔類)を鑑賞することのできる「苔の里」と、築100年の古民家を改修して生まれた交流体験施設「Wisdom House(ウィズダムハウス)」からなる観光体験スポットとして多くの人々に愛されています。まずは有川さんに叡智の杜という名前に込められた意味を伺ってみました。
「風土と生活文化により形成された苔庭、里山全体の自然林とこの地が原産である日用杉の林、代々の暮らしが感じられる古民家。これらの自然環境と人と時間が作り上げた景観を叡智の杜と名付けました。この地に暮らした先人たちの叡智に感謝し、この景観の中で新たな叡智が生まれることを願いに込めています。」
日用町にある苔庭をはじめとした美しい自然環境は、各々の家が代々にわたりとても長い時間をかけて形成、維持してきたもの。そうです、苔の里はすべて日用町に住む人々の私有地なのです。
叡智の杜プロジェクトの一環として、苔庭を回遊できるよう整備し、平成25年より一般の方に公開することが可能となったのです。
「叡智の杜に限らず、里山の魅力は一面的でなくいろんな楽しみ方があるもの」と、有川さん。叡智の杜プロジェクトでは自然を維持しながら日用町の活性化にも取り組まれており、さまざまな企画や活動を行っています。
苔の里の公開、そして住民によるガイド案内、苔の里サポーターとの活動、専門家による苔の講義、苔庭ライトアップ、古民家 de JAZZなど、多くのイベントを開催しています。気になったものにはぜひ参加して、意見や感想もお気軽に寄せていただきたいそう。この美しい自然を未来に伝えていくために、とてもポジティブに活動されているのですね。
しかし、自然豊かだからこそ苦労されることもあるのだとか。なんとイノシシが苔庭を荒らすことがあり、それを防いだり直したりすることがとても大変なのだそうです。また一方で、印象的なエピソードについても語ってくださいました。
「ドイツから何度も来てくださるお客様に、『来訪者のために看板や案内表示を増やすとここの良さが失われる。親切にならなくていいよ。』と言われたことがとても心に残りました。」
自然や景観の維持を図りながら町の活性化を目指すことは、とても困難なことでもあります。積極的に観光化に取り組むのではなく、“愛好者の散策”と“住民の生活”をバランスよく取り入れ、里山の静けさと生活文化を感じられる施設を目指されているそうで、この言葉が心に残ったという有川さんのお気持ちがとてもよく伝わってきました。最後に、今後の展望についてお聞きしてみました。
「私たちはこの美しい景観を次世代に遺すことを目指して活動しています。そのために住民の和を大切にしながら、交流人口を増やして里山の活性化につなげたいと思っています。今後は同じような地域おこしの活動をしている人たちや、苔好きの方々との交流もしてみたいです。」
日本ならではの美しき里山風景。それを維持し、そして未来に遺していくために。そして日用町だけでなく、世界中に自然との共生の必要性を伝えていくために。より多くの方に叡智の杜の活動を知っていただければ嬉しいです。
なお、苔の里訪問の際は以下もご確認ください。
・苔の里はすべて私有地のため散策の際は十分ご配慮ください。また、不定期でご覧いただけないことがあります。遠方からお越しの際は、ご確認いただけると安心です。
・開演時間は午前9時~午後4時。(1月~3月中旬は冬季閉園です)
・入園時に、景観整備協力金としておひとり500円お願いいたします。
・ガイド予約、お問い合わせは090-7093-6969までお電話ください。
・詳細は叡智の杜ホームページ、苔の里インスタグラムをご覧ください。
記事は取材当時のものです。