自分たちの手ですべて確かめる。「ストーリーのある服」を糸から紡ぐ栃木県足利市FACTORY
栃木県足利市にパターン、縫製、原料も糸から自社生産してお洋服を作るブランドがあると聞いて、どんなものづくりをしているのだろうと興味が湧きました。足利は地場産業の町でもあり、様々なものづくりが息づいています。そんな中で、「ストーリーのある服」を生み出しているブランド、FACTORY(ファクトリー)へお邪魔してきました。
今回お話を伺ったのは、FACTORYの野村塁さん。お忙しい中、工場から店舗の見学までご案内いただきました。
FACTORYは野村さんが代々足利で服飾にまつわるお仕事をされていた背景もあり、社長であるお母様が32年ほど前にブランドを立ち上げたそう。
「そもそもの始まりはセレクトショップでして、DCブームの時に素材とか感性の部分でこだわりのある洋服を取り扱っていました。そうして仕入れて洋服を売ってはいたものの、洋服を作れるという背景があったので、お客様のニーズもあり、1枚のシャツのセミオーダーからスタートしました」
この1枚のシャツから始まって、FACTORYのものづくりはどんどん深化していきます。
「僕らのスタンスとして、ものをつくるっていう部分では、自分たちで形にすればそれがものづくりっていう考え方とはちょっと違うので、その作っている過程の中でいろいろ問題点も出てくれば、ものの良し悪しも出てくるし、新たにやりたいことが出てきて、それが今の形になったんですね」
「シャツを作るっていうところからスタートして、作っていながら、どこかものをつくることへの追求みたいなところで、物足りなさみたいなものを感じて。白い生地を買って、染めを工場へ出して、染めたもので仕立てていたんですけれど。それでも色にオリジナル性を求めるようになって、独自の色作りや製品になってからの加工などができる工場を20年ほど前に作りました」
染め工房をつくることで、オリジナル性の膨らみもでましたが、ものをつくることへの追求は染めだけには留まりません。生地を織ることから、糸を紡ぐところまで、さらにはその原料の調達までとことんこだわっていきます。
「生地の部分で、そこもオリジナルで追求したいというのがあって、当時インドから始まって、ベトナムへ行ったりネパールへ行ったりしまして、手織りの生地を作っていただきました」
「もう日本国内だと手織りで仕立てた洋服というのは着物以外なかなかなくて、そういった意味でオリジナルのマシンメイドではなく、手で織ったものの生地をこだわって作って、それを仕立てて洋服にして、染めてっていうのをやりたくて海外に行くようになりました」
いろいろな情報を得て、海外へ足を向ける野村さん。そこにはお客さまへ納得に行く商品を提供したいという作り手の想いがありました。染めから生地へ、生地から糸へ、野村さんはまた海外へ繰り出します。
「いろいろなところに行きまして、生地のオリジナル性を追求してやっていく中で、生地を織るってなると生地が織られる前って糸じゃないですか、その糸の段階でもこだわりたいっていうのが徐々に出てきて」
「今度は生地で作ってもらうのではなくて糸を作ってもらおうと。糸を作ってもらったら、自分たちでいろんな生地に料理しようって考え方になりました」
春夏の洋服では、麻を探しにベルギーへ赴いたそうです。世界的に良質な麻の産地というと、フランスやベルギーなのだそうですが、その中でも完全オーガニックで麻糸を作っている糸屋さんを見つけます。
「麻が収穫の時期になって、そこで普通は繊維を取るために麻を切って工業的に薬品などを使って外皮や泥を取ってきれいな繊維を取り出すんですけれど、そのベルギーの会社は、そのまま大地に切り倒して雨と風と太陽の力で外皮を取り出して、自然に中のきれいな繊維を取る。自然の力で繊維を取るっていう非常に力強いリネンなんですね」
そのリネンを使うことに始まり、綿はペルーの海岸沿い、過酷な環境の中で取れるキメが細かく、光沢もあり脂分もある綿を。
さらに一番力を入れているのはモンゴルのウールなのだとか。広いモンゴルの中でさらに原料を厳選するために、遊牧民から原毛を買うというこだわりです。
そして自分たちで製品に向いた糸を作るために、昨年工場を建てるまでになりました。
「作っているとやっぱりどこか、いいものを作っていてお客様に満足はしていただいていても、自分たちでは満足できていない部分があるんですよ。作っているとここにもっとこだわっていきたいとか、それを常に常に問うというか」
「私たちは自分たちのものを自分たちで作るという考え方なので、ゴール地点が決まった製品ではなくて、もっといいものをと、決まった製品の中でもさらにいいものをと考えていて、目標スタンスが違うんです」
その一連の試行錯誤の中で生まれた良い製品をお客さまへ伝えていきたいと野村さん。
産地からこだわって洋服に仕立てたその素材の良さを、お客さまに共感していただいて愛着を持ってもらうためにも、その背景を説明して「着て本当に感じるもの」を提供したい。表記は同じ綿や麻でも、どんな環境で、どんな人が作っているのか、それを大切にしているそうです。
「いま消費で安いものが多く作られている背景もあると思うんですけれど、一方でそうじゃないものもあって、だけどみんなひとつで考えてしまうと、お客さんの判断って値段でモノを見たりとか、ブランドでモノを見たりとか、カテゴライズしてモノを見るっていう色眼鏡の基準が違う方向にあるんじゃないかなって思うんです」
「変な色眼鏡のメディアだったりとか、世間一般の情報だったりとか、そういうことじゃなくて、着て本当に感じるものじゃないとダメなんじゃないかな、それが本質なんじゃないかなっていう。一言でいうと「ストーリーのある服」っていうのが僕らのコンセプトですね」
お気に入りで何度も着たくなるような服になりたい。そのためには長持ちする素材、着やすい形でなければいけないし、服としての雰囲気も重要だと野村さんは考えているそう。
「やっぱり素材が良かったりとか作りもしっかりしていると、それが自分の体の形になってくるし、はじめ未加工で少し硬かったものが身に付けることでふっくらしてきたり、年月を重ねることで逆にいいものになっていくとか味が出てくるとか、そういった洋服にしていきたいなっていうのがあるんです。日常のライフスタイルの中で長く着ていただきたいなって思いますね」
FACTORYのお客さまの中には、東京や大阪からわざわざ足を運んでくださる方もいるのだとか。同じお洋服や同じ形のものを何枚も購入したり、気に入ってくださる方も多いのだとか。それだけこだわりのものづくりの良さが伝播しているのですね。
「これからは伝えていく人の幅を広げながら、新しい素材や使ったことのない素材を探して、ワクワクする洋服を作っていきたいですね。そのための素材の追求やデザインの追求は今後もしていきたいです」
記事は取材当時のものです。