小松九谷をあらたな文化拠点に。「CROSS K(クロスケ)」の挑戦

CROSS K クロスケ 小松九谷焼

 

日本に数ある焼き物の中でも、際立った彩色が印象的な九谷焼。その魅力を伝えるべく立ち上げられた「CROSS K(クロスケ)」は、石川県小松地域在住の九谷焼若手作家らによって結成された今注目のプロジェクトです。今回はCROSS Kを立ち上げた3窯元のみなさまにお集まりいただき、貴重なお話を伺いました。

 

 

みなさんは九谷焼と聞いて何を思い浮かべますか?緑、黄、赤、紫、紺青。五彩で施される和絵具の繊細な色柄、そしてどこか力強さを感じられる佇まい。見れば見るほどにその美しさに圧倒されます。

 

長い歴史を持ち、日本の誇る伝統産業である九谷焼ですが、悲しいことに今の生活から少しずつ遠ざかりつつあるのも事実。九谷焼の持つ魅力を発信し、そして理解や親しみを取り戻すことをテーマに立ち上がったのがCROSS Kなのです。

 

 

九谷焼の窯元が点在する石川県小松市で、CROSS Kは小松地域在住の若手作家らによって結成されました。まずはCROSS Kを制作する3つの窯元と作家についてご紹介します。

 

錦山窯(きんざんがま)は、1906年に初代吉田庄作氏が開窯。おもに絢爛豪華な金箔を使用した金彩技法を得意とし、伝統を継承しながらその美しさを伝え続けています。三代目美統氏は“釉裏金彩”の技法を高め、国指定重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受けました。

 

 

シンプルなものが多い現代で、優美な金彩技法を磨き上げる作陶スタイルは希少で独自な存在感を放っています。CROSS Kは、現在錦山窯四代目当主である吉田幸央さん、そしてアートディレクターである吉田るみこさんが中心となり立ち上げられました。

 

 

パリのメゾン・エ・オブジェへ出展するなど、海外でも精力的に活動をされています。CROSS Kの作品では、淡く優しい色づかいにさりげない模様が施されたものから、金彩が際立つ濃色を生かした力強いものまで、ご夫婦ならではの多彩な表現方法に驚かされます。

 

 

続いて五十吉 深香陶窯(いそきちしんこうとうよう)は大正初期から続く窯元。初代浅蔵磯吉氏が素地をつくる工房を開き、二代目で加飾技法を取り入れ、眺めるほどに奥深さを感じられる“浅蔵カラー”を確立させました。三代目となった今も表現の幅を広げ続けています。

 

 

また原料はおもに小松市花坂町で採掘される花坂陶石が用いられ、繊細な形成を可能にしています。独特なカラー、そして土のテクスチャーを生かした作品が特徴で、素地から絵付けまで一貫して制作する珍しい窯元です。

 

 

五十吉 深香陶窯からは三代目の長女である浅蔵一華さんがCROSS Kに参加しています。女性らしい華やかな色づかい、そしてモダンでどこかポップさも感じられる作風が特徴です。色と色の重なりによる奥ゆかしい表現にうっとりしてしまいます。

 

 

そして最後にご紹介する真正窯(しんせいがま)は1961年に開窯。初代が京都の出身であり、西陣に住んでいた経験から西陣織の優美な色柄に影響を受けたと言います。繊細で緻密な絵付けが特徴であり、具象から抽象に至るまでさまざまな表現を得意としています。

 

 

九谷焼とひと目でわかるような、地域性にこだわり伝統を大切にしたものづくりをしつつ、進んで新しい表現にも挑戦していく、革新的な窯元です。

 

 

真正窯からは二代目である宮本雅夫さんがCROSS Kに参加しています。細かな線や点を用い、繊細ながらも大胆で独創的にデザインされた作風が特徴です。植物などの具象デザインに加え、幾何学的な抽象模様まで、細部までこだわった絵付けに圧倒されます。

 

 

CROSS Kはこちらの3窯からスタートしました。ひとえに九谷焼と言っても、各窯元ごとに特徴や違いがあり、それぞれの強みを生かしたものづくりがされているのですね。その奥深さに興味津々です。続いてCROSS Kというブランド名について伺ってみました。

 

「まず“K”には小松、そして九谷という意味が込められています。つまり、小松と九谷をさまざまな産業や国、異文化などと交流=“CROSS”させて、共同で新しいものを作り未来を切り開いていきたいという想いから「CROSS K」と名付けました。」

 

また、文字通り“クロスケー”と読むよりも、“クロスケ”の方が愛らしいのでは?と、錦山窯の吉田るみこさんがこの読み方を考えられたそうです。

 

 

そして歴史を振り返ると、小松式土器が出土されていることからもわかるように、古くからものづくりの町であった小松。先代の人々が作ったものや作り手の魂をリスペクトし、それを現代に伝えるべく、CROSS Kの作品は小松式土器からヒントを得たフォルムとなっているのです。

 

生活の中で何気なく使い愛でて欲しいという想いから、かわいくて、親しみやすいサイズや形のラインナップに。

 

伝統産業の継承が危ぶまれる現代。そんな状況だからこそ、「うちの窯元だけが」ではなく「九谷全体が」盛り上がって発展して欲しい、その想いでみなさん取り組まれています。そのような考え方は、わかっていてもなかなか実践できないもの。

 

九谷の窯元のみなさんはとてもオープンで仲が良く、だからこそ“CROSS”した柔軟な考えが生まれるのだとお話を聞きながらしみじみと感じました。

 

 

CROSS Kは3窯元から始まりましたが、今後もっと共感する仲間が増えていくことが目標なのだそうです。小松や九谷焼の情報発信の拠点でありきっかけになっていくこと、それがCROSS Kでありたいと、みなさん口を揃えて語ってくださいました。

 

しかし、立ち上げるまでに苦労したことも多々あったのだとか。新しさを出しながら各窯元の持つ特徴をどう表現していくか、そしてその技術や表現方法を出せるように試行錯誤を繰り返したそうです。

 

そんな中でも、チームであるからこそお互いにアドバイスをし合ったり、異なる表現を見て学んだりと、新たな気づきも苦労以上にたくさん得られたといいます。

 

 

「自分の窯にこもり、他のことは知らない、ということが当たり前になっていますが、それだと発展に限界があります。このプロジェクトを通して他の窯やさまざまな分野の人たちと関わり別の視点を得られたことで、いろんなことに気づけました。こういったプロセスでの学びがすごく大切で、次のステップに繋がると思っています。この動きがどんどん広がっていって欲しいですね。」

 

時に客観的な視点を加えることで、新たな発見に繋がってゆく。CROSS Kから私たちが学ぶこともたくさん!続いて、そんなみなさんに九谷焼の持つ魅力について教えていただきました。

 

 

「日本の中で色に特徴のある焼き物と聞くと、まずは九谷焼をイメージされるのではないでしょうか?その絵付けの技法ひとつを取っても、窯ごとに違いがありさまざまな技術が残っています。色の多彩な表現で、一点として同じもののない作品ができるおもしろさが魅力です。雪が多い北陸にカラフルな九谷焼が生まれたのも、何か意味があるのかもしれませんね。」

 

そうお話しされる通り、作品は雪景色にも映えとても美しいのです。CROSS Kで展開する作品も、九谷焼らしさがふんだんに表現されています。

 

しかし他と違っておもしろいのが、商品名や使い方を限定的にしていないという点。北欧のライフスタイルからも影響を受けているそうで、使い手に委ねた商品提案をしています。

 

器に興味はあるけれど、少し敷居が高いと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。使い方は使う人次第と、間口を広げてくれることで器への親しみやすさも高まりますね。続いて実際に商品を手に取ったお客様にどんなことを感じていただきたいかをお聞きしてみました。

 

 

「たった3つの窯でも、こんなにたくさんの表現ができて拡がりがあること、そのおもしろさや作品ひとつひとつのあたたかみをぜひ感じていただきたいです。日常生活で九谷焼をたくさん使ってもらうことは難しいかもしれません。ですが、ポイントで取り入れて空間の変化を楽しんでいただければとても嬉しいです。また、時間帯や光の当たり具合によっても変わる多様な表情もすてきですよ。」

 

最後に、今後挑戦していきたいことについて伺ったところ、“世界展開”というお答えが。

 

「CROSS Kというチームとして、日本国内だけでなく海外の人々や文化ともCROSSさせて九谷焼の良さがどんどん広まって欲しい。そして逆輸入的に、日本でも再注目されれば嬉しいです。」

 

 

「また、できるだけ環境に負荷をかけず、手から生まれる伝統工芸のものづくりの良さを大切にしていきたいですし、人々に知って欲しいです。少し欠けてしまったり金がはげてしまった器でも、味わいがあって良いのです。サスティナビリティという点で、商品を長く使っていただくためにその良さを提案していくことも使命だと考えています。」





知れば知るほどに壮大で、メンバー全員の想いが強く込められたプロジェクトであるCROSS K。しかし決して現状に満足せず、共に意見を交わしながら成長を続けていく姿はとても謙虚で誠実そのもの。

 

だからこそ本当に美しく、優しく、あたたかみのある作品が生まれるのだと肌で感じました。読者のみなさんも九谷焼がより身近な存在になったのでは?今後のCROSS Kの活躍にぜひご注目ください。

 

記事は取材当時のものです。