佐賀から世界へ あらゆる刃物に精通した「吉田刃物」の新たな挑戦

吉田刃物 ZDP189

 

みなさんは、佐賀県が刃物の製造において長い歴史があることをご存知ですか?ピンとこない方が多いかもしれませんが、佐賀刃物のルーツをたどると、遥か慶長年間にまでさかのぼります。その中でも肥後刃物の流れを受け継いで、2,000種以上の刃物を取り扱っているという、日本でも数少ない刃物工場が「吉田刃物」です。

 

初代創業者は弟子入りから刀鍛冶となり、戦後は鍬(クワ)、鎌(カマ)の農業用刃物や園芸用、機械用など刃物一筋で生産を続けてきました。

刃物産地として有名な、新潟三条、大阪堺、岐阜関、福井武生、兵庫三木小野、高知土佐山田等の刃物産地では、多くの刃物関連業者が存在し、生産体制が整い、鍛造(たんぞう)、焼入、仕上、柄付等の工程の分業が多かったのだとか。

一方で周辺の刃物関連業者が少ない佐賀の吉田刃物では、いち早く機械化を進め、自社での一貫生産を確立した事が後の多種多様な刃物の開発、生産に役立つ事となります。こういった工場は全国的にも珍しく、いろいろな刃物に関する相談が舞い込んできます。

その依頼に応えるうちに、なんと扱う刃物が2,000種以上になってしまったというから驚きです。主力は農業園芸用の刃物で、北海道のじゃがいも畑から、沖縄のサトウキビ畑まで、吉田刃物の製品が日本全国で使用されているそう。

現在、吉田刃物が扱う製品のなかで、包丁の占める割合は約8%ほど。しかしいま、その伝統革新の技術を生かした新しい包丁が国内外から注目を集めています。

吉田刃物 ZDP189

それがZDP189というステンレスの特殊鋼材を使った高級包丁。写真はダマスカス模様の製品で、ZDP189を刀芯に、ステンレス鋼を重ねて21層の多層鋼にした技術の結晶のような逸品です。今では海外からの人気も高く、種類によっては半年近く待って手元に届くほどの人気ぶり。

ZDP189の特徴はなんといってもその硬さと長持ちする切れ味。さらに、ハガネ以上の硬さにも関わらず、ステンレスでサビに強いところ。硬いと刃が丸くなりにくく、普通のステンレス包丁より頻繁に研ぐ必要がありません。

ただし、非常に硬いので家庭できちんと研ぐにはちょっと大変です。愛用者は吉田刃物に郵送すれば安価で研ぎもしてくれるので安心です。世界トップクラスの硬さを誇るこだわりの製品で、こだわりのお料理はいかがでしょうか。

最初はその切れ味にびっくりするほどだというこの包丁。普通だとなかなかきれいに切ることが難しい、パンでもケーキでも巻き寿司でもなんでもよく切ることができます。これを使うと他のものは使えないという愛用者も多数いるほど。切れ味が良く細胞を潰さず水分を逃がさず切れるので、食材の味を活かせると人気です。

工房では15人ほどの職人さんが、一心不乱に仕事に取り組んでいます。火と鉄を扱うとても体力のいるお仕事ですね。今回取り上げさせていただいたZDP189の包丁は、海外のお客様よりどうしてもこの鋼材で製造して欲しいとの要望を受けて、新しいものづくりへのチャレンジとして作られた包丁なのだそう。

吉田刃物 ZDP189

実際に工房を見学させていただきました。

吉田刃物 ZDP189

ZDP189は黒打ちのシリーズも展開されているのですが、この刃物材でこのシリーズは世界でも吉田刃物だけといっても過言ではないほど特徴的なもの。鍛造(たんぞう)で鍛えたなんとも言えない黒い肌を出すために、試行錯誤を重ねてこられたそうです。ステンレスなのに昔ながらのハガネのような黒打ちの風合いが、逆に新しいと海外からも人気なのです。

編集部がお伺いしてびっくりしたのは、その価格。職人さんが手仕事で作られた希少な包丁にもかかわらず、なかなかリーズナブル。と、その感想をお伝えしたところ「佐賀の地元価格では高いと言われてしまうんですよ」と笑ってお話ししてくださいました。

この包丁を手にすることで、普段のお料理がちょっと楽しくなる、すこし豊かな気持ちになる。家事はひとつひとつの道具が便利になることで、ぐっと負担が減りますよね。そんな風に、普段使いで使って欲しい、一生モノのマイ包丁。道具としての使いやすさとバランスを追求しているので、ぜひ使い込んでくださいとのことでした。

今後の目標は、海外進出。まずはドイツの国際見本市アンビエンテに初出展が決まっているそうです。佐賀から世界へ、佐賀の刃物を発信していけたら、というチャレンジです。

吉田刃物 ZDP189

いままでは真面目にひたむきに刃物を作ってきたので、なかなか情報発信できずにいたそうですが、全国的に鍛冶屋が少なくなっている中、各地のお困り事、要望の中から、さらに新しい製品を生み出していき役に立ちたい。

吉田刃物 ZDP189

その根本には「より使いやすい商品をお求めやすいお値段で」という想いがあります。

又、現代では使い捨ての風潮がありますが、「長年使用して使い慣れた刃物を、修理して大切に使いたい」などの要望から、自社製・他社製問わず、包丁、ハサミ、農具等の刃研ぎや柄替え等の修理も行っているとの事。「畑から台所まで、幅広くサポートしますよ」と語ってくださいました。

新しいものとの出会い、それが生む体験やストーリーにはいつだってわくわくしますよね。それが大切に作られたものならなおさら。この機会にぜひ、吉田刃物の包丁、刃物を手にしてみてはいかがでしょうか。いまよりちょっぴり嬉しい、豊かな暮らしがそこにはあるかもしれませんね。

こちらは2018年10月5日公開の記事を再編集して公開しました。記事は取材当時のものです。