日本古来の伝統「お香」でちょっと上質な日常を。ひとつひとつ職人が手作りしたお香専門店 神楽坂「Juttoku.」

 

ふと風が運んできた香りになぜか懐かしさを感じること、ありますよね。夏の終わりの空気、金木犀の香り、冬の朝の匂い。嗅覚はどこか私たちの大切な記憶の部分と深く結びついているのではないかと思います。お香を焚いた時になんだか胸のつかえが取れたような気分になるのは、日本人としての感性を呼び起こすものが私たちの中にあるからではないでしょうか。

 

今回はお香で楽しむちょっと豊かな日常をご提案します。

 

神楽坂にあるお香専門店「Juttoku.」オーナーの井口さんにお話を伺いました。

 

 

お香との運命的な出会い

元は会社員としてお仕事をされていた井口さん、当時はお香とは全く無関係の生活を送っていたそうです。それがリーマンショックの直後に色々なことがあり、心身ともにボロボロになりどうしようもない閉塞感を抱えていました。そんな時、富士山の麓、河口湖にある小屋でお香を体験し、今まで感じていた些細なストレスであったり、苛立ちであったり、この先への不安などの色々な感情がすべてするりとなくなってしまったそうです。まさにこの出会いがすべてで、井口さんは「これだ!」と思い、Juttoku.を立ち上げます。

そこには「お香の燻らされる煙のゆったりとした様子を見ること、香りを嗅ぐこと、その5分や10分でこんなにも気持ちが落ち着くのであれば、現代の慌ただしく働いている方に使って欲しい」という想いがありました。

 

伝統の工法でひとつひとつ手作り

Juttoku.のお香は淡路島で職人さんがすべて手作りしています。すべて天然の香料を使っていることも特徴のひとつ。心に響く香りを提供するためのこだわりなのだそう。いくら香りが良くても、安価な合成香料であったり、科学的に作られる香りは、カラダというのは正直に反応するのでどこか違和感を感じるもの。心から安らぐために、自然の力を借りてお香を作るありがたみを井口さんも、職人さんも感じながら、Juttoku.のお香作りに携わっています。

 

 

繊細な自然の材料をそのままお香にしているため、白檀ひとつとっても少しずつ違いがあるそうです。それを丁寧に聞いて(お香を嗅ぐことを聞くといいます)どういう調合にするかであったり、焚いた後の香りがいかに心地よく感じてもらえるかを考えて、混ぜ合わせ方や乾燥の段階、お水の加減だけでも香りが変わるので、職人さんはとても繊細な作業にあたります。この昔からの製法というのは自然そのものの良さを残すためにあるんですね。

 

例えば、海風で徐々に乾燥させていく手法など、昔なら当たり前だった技術が今では珍しくなっているそうです。まさに細やかなこだわりや作り手の想いがこもった自然そのもののお香です。

 

また、お線香はまっすぐに作られているのがみなさん当たり前だと考えていると思いますが、まっすぐに作るのが一番難しいのだとか。なんども繰り返し補正をしながら作っているそうです。なぜ、そこまでまっすぐにこだわるのかというと、香りとともに天にまで祈りが届くようにという願いと、天に届くのと同時にご先祖様にもまっすぐな心でまっすぐ気持ちが届きますようにという願いがあるからだそうです。そういった想いも踏まえて、お香をただのものとして扱わない職人さんに丹精込めて作っていただいています。

 

お香の楽しみ方

お香をどのように楽しんだらいいのか、井口さんに聞いてみました。

 

「お香には10の徳というものがあり、元は中国から入ってきたものなのですが、改めてJuttoku.からはまずお客さまに、心を落ち着かせたいときや、夜眠るときであったり、本を読むときや静かに考え事をしたいときなどに使っていただきたいというご提案があります」

 

「もうひとつ、身も心も清らかにという徳があるのですが、お香によって心が整うと、自然に苛立っていたものすべて研ぎ澄まされていく、それは心身ともに清らかな状態ですよね。また、本来お香というのは仏教を通じて伝わってきたものでもあり、どうしてお香を用いていたかというと、香りを嗅ぐことによって、空間が清らかになる、邪気が祓われるという意味合いもあります。なので、空間を清らかに、お部屋の中で炊いていただくこともお勧めしています」

 

 

「あとは祈りであったり、ご先祖様へというのもありますが、いい音といい香りというのは唯一天にまで通じると言われていまして、天との通い合いというときにも使っていただきたい。また、おもてなしの部分で、自分の焚いた空間の中に来ていただく、一緒にその空間を味わいたいということで、ご自宅でお客様が来る前に焚いていただいたりするのも良いですね」

 

「お香はリラックスだけではなく、人と人とを結びつけることでもあるので、どう使うかはお客様にお任せしますが、一番は心が落ち着くということ。夜眠る前、リラックスしたいとき、お掃除の後。それこそが昔の方々がずっとやってきたことなんです。それを利便化であったり生産性であったりが戦後入ってきて、忘れてしまったところをもう一度再帰して欲しいなと思います」

 

お香を取り入れることで、生活が豊かになる、少し手間をかけて自分に立ち返る時間を作ってみることも素敵なことですよね。

 

 

井口さん自身、Juttoku.を始めてからこの8年、自分も体感しながら作り上げてきたお香の世界ですが、ここにきて今まで錯綜していた部分も全てお香を通じてクリアになってきたそうです。

 

「嫌なことがあっても生きている上で悲しいことも、喜怒哀楽あってこその人生なので、そういうものも全てゼロに戻してくれるというのがお香だなということが分かってきたとのこと。行き過ぎてもいけないし、かといってマイナスに行き過ぎても行かない、全てがゼロでニュートラルというのが一番本当のリラックスした状態というか、人間が一番人間らしくある状態だと思います」

 

これからはそういったお香の良さをもっとわかりやすく、きちんと伝えていけるように。お香をもっと身近に感じていただいて、当たり前のように暮らしの中に取り入れていただく。皆さんが安らかな気持ちで日常を暮らしていけるように、そこにもっと注力していきたいそうです。それから、海外の方にお伝えしていくこと。これからもっと海外の方にも日本の暮らしがあって、日本人の感性であったり、美意識があってのお香なので、そこも含めて伝えていけるようにはと思います。とのことでした。

 

日本の昔からの暮らしや美意識に根付いた伝統でもあるお香、本当に奥深く、日本人として知っておきたい知識もたくさんお話しいただきました。是非、お香のある空間でリラックスすることも含め、日本伝統の美意識を体感してみてください。

 

記事は取材当時のものです。