花がある暮らし。豊かな時間を作り出すアルミ花器の可能性 栃木県足利市 丸信金属工業

 

丸信金属工業は昭和32年創業のアルミ加工を専門とした会社。会社の歴史もさることながら、実はアルミ金属の新たな可能性を追求しているブランド「ALART」を展開しています。独創的な花器やアクセサリー、テーブルウェアなどはどれもアルミから生まれたのかと、目を疑うほど美しい完成度です。今回は、専務取締役の坂本智美さんにお話を伺いました。

 

会社は創業から60年続いていて、今が3代目。創業は坂本さんの祖父で、当時アルミの産業が盛んだった栃木県足利市に工場を構えました。その頃は家庭用の金物、急須やお鍋、薬缶などいろいろなものを作っていたのだそうです。そして2代目は主に空調の吹き出し口などを製造、3代目になってALARTを自社のブランドとして20年、続けてきました。

 

智美さんは会社を継ぐ前はOLとして働きながら、お花屋さんでも仕事をしていたそうです。若いなりに自分のやりたいことを探して、行き着いたのが自分も大好きだったお花。それでもずっと家業を継ぐように言われてきたことへの葛藤もあり、工場を継ぐ頃にはアルミと花を繋げてなにかものづくりができないか、と考えていたそうです。

 

最初はあまり乗り気ではなかった家業のアルミ加工。東京から足利に戻ってきて、この工場はとてもローテクだなと思っていたのだとか。けれどそのうちにこの工場はすべての工程を自社で行うことができる、これはすごいことなのだなと感じるようになりました。

 

 

工場を継ぐようになった智美さんは、自社に個性や発信がないことに気づきます。そこで花の仕事をしてきたことを活かして、アルミと花を組み合わせた発想の花器を作ることにしました。それはアルミ加工の工程を全て一貫で行える強みを持った丸信金属工業ならではのものづくりでもあります。

 

今までは誰か他の方に依頼されたものを作るだけという会社だったので、人にやってもらうのではそこから脱皮できないと考えた智美さんは、20年前にALARTを作ることで、会社を再興します。

 

ALARTの花器はとても独創的で、花の仕事を続けてきた智美さんならではのアイデアが随所に生きています。今までは花を活けたいと思うと剣山やオアシスしか選択肢がなかったなか、現代では花を飾ることがナチュラルとかエンジョイという意味合いを持つようになったと感じ、少しの花でも活けることができる、日常に当たり前のように置ける花器を目指してALARTの花器を作り始めました。

 

 

拝見させていただいた花器はどれもシンプルだけれど機能的で、気軽に花を活けられるようなものばかり。智美さんはこの花器をきっかけに花を好きになって、ずっと続けて花を活けてもらえるといいなと思っているそう。

 

ALARTの花器は花を身近に感じられる、「花のある暮らし、ゆったりとくつろぐ時間」をコンセプトにしています。最初の商品は、アルミを切り出して曲線を描いたもの。自分で形を作ることができて、グラスなどにはめるだけで形良く素敵に花を活けることができるので、今でも一番売れているそうです。

 

 

アルミはどうしてもサッシなどに多用されるので、どこか安価な素材というイメージが一般的にはあり、鉄などに比べてまだ歴史も浅い金属なので、なかなか用途を見出されてこなかった素材。しかし智美さんが言うには、アルミは素材として見出せる部分が多く、漆と組み合わせてマットな質感のものを作ったり、他の素材と組み合わせやすいのだそう。 今まではアルミで花器を作るという発想がなかったので、その隙間をALARTは開拓してきました。

 

ここ10年ではアルミの可能性という部分をクローズアップして、アルミの表情や、加工のしやすさ、染色できることなどのアルミの特性を活かしたものづくりを行っています。 金属の工業製品というと、とても機械的なイメージが付きまといますが、ALARTの工場ではほぼ手作業で商品を作っています。工場を見学させていただきましたが、女性も多く、職人さんというよりは若い方が生き生きと働いている姿が印象的でした。

 

 

ALARTの商品を手に取ったお客さまには、発見があるような楽しみを持って使ってもらいたいと智美さんは考えています。展示会などでも、「こんな便利なものをずっと探していました」と声をかけていただいたりするそうで、みなさん自分の中で道具に対する歯がゆい部分があるから褒めてくださるのでしょうね、とお話ししてくださいました。

 

またそれだけではなく、日本人はひとつのものをひとつの用途に使うのが好きだけれど、道具としても便利さの他に、想像がふくらむような楽しみも見つけて欲しいとのこと。なので、商品には少し余白を残して作るようにして、新たな発見があるように想いを込めているそうです。

 

 

「花を活けるって、洋服をコーディネートするのと一緒で、ひとつの空間を作ることだと思うんです。そこにひとつALARTの花器を入れたら、空間が引き締まったり、華やかになったなと思っていただきたい。だからデザインに空白を残しています」

 

ここまでアルミの素材とずっと向き合ってきたというのは先代の想いを大切にしていきたいという気持ちがベースにあるのだそう。

 

今後は、先代のおじいさまが願っていた「100年続く会社」を目指して、作るものの形や用途は変わるけれど、あと40年は続けられる会社にしたい、と智美さん。時代に即した自分たちの会社にしかないことを続けていきたいなと考えているそう。それは発想があって、その発想をベースにして作り手がいてくれることも大事なことのひとつ。

 

一緒にやってくれる仲間がいて、人の手があるということを強みにした会社の良さというものをもっと外に発信していけるようにしていきたいとお話ししてくれました。

 

 

そのためにも、新たに作ったショールームを人の集まる場所にもしていきたいそうです。ただのものづくりではなく、背景があるものづくりを目指して、智美さんは会社の仲間たちと今日も新しいアイデアを生み出し続けています。自社ですべてを完結できる会社ならではの強みですね。

 

 

東京からのアクセスも良い足利のアトリエに、皆さんも是非足を運んでみてください。きっと新しい発見に出会えるはずです。

 

記事は取材当時のものです。